神志名社長と同居生活はじめました
そっと目を閉じる。

目を閉じていても分かる。社長の気配、感触、そして温かさ――全てを。



唇が離れ、瞳を開けると、近距離で目が合う。
社長の睫毛、長い……なんてぼんやりと思ってしまった。



「あ、の……?」

恐る恐る、社長に声を掛ける。

社長は、私の肩にぽすんともたれ掛かり、そして……私の手を握る。


「しゃ、社長⁉︎」

「あー、緊張した」

抑揚のない声でそう言う社長に私は、「絶対嘘」と唇を尖らせる。


「本当だよ。好きな子にキスする瞬間はそりゃあ緊張するさ」

「だから緊張しているようには見えな……え? 好き?」


今、私のこと好きって言ってくれた?



「社長……それって、こ、告白ですか?」

「うん」

「うんって……。そんなサラッとした感じじゃなくて、もっと真剣な感じで言ってほしいです」

「愛してる」

「更にサラッとしてるじゃないですか!」

せっかくの告白なのに、どうもいまいち熱が感じられないのだ。……社長のことだから、嘘は吐いてないと思うけれど……。


「だから本当だよ。困ったな。昔からそうなんだ。本当のことを言っているのに、嘘っぽいとか、信じられないとか言われる。日頃の行ないのせいかな?」

「いえ、無表情なのと口調のせいだと思います」

「そうか」

「でも……やっぱり嬉しいです」


凄く、嬉しくて堪らない。
私……私って……


「あの……私、社長の彼女……って思ってもいいのでしょうか?」


勇気を出して、恐る恐る尋ねてみる。
相当恥ずかしい質問をしているということは分かっている。
でも、ここでしっかり確認しておかないと、後で勘違いだったと発覚した時の方が恥ずかしいし、ショックも大きいだろうと思ったから。


すると、社長の答えは。



「……違うんじゃない?」

「え」


ち、違ったか……。
ま、まあ社長ほどのお方が相手だ、一回キスしたくらいで彼女、なんて思ったらいけない……のかな。
うん、こうして遊園地でデート出来ているだけで奇跡のようなものなのだし、傷付いてはいけないよね……。


とは言え、ショックを受けてしまったのも事実だったのだけれど。



「……彼女じゃなくて、奥さん」
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