愛は貫くためにある
しかし、麗奈は立ち上がることが出来なかった。
なぜならー
決して離すまいと言わんばかりに、麗奈の左手首はしっかりと勉の右手に掴まれていたからだ。
「勉さん…?」
麗奈は目を丸くした。
「…な」
「えっ?」
勉が何を言おうとしていたのか聞き取れず、麗奈は聞き返した。
「…行くな」
「えっ、勉さん、あの…」
麗奈は驚いた。
座って、と勉は床を指でとんとん、と叩いた。麗奈はちょこん、と勉の向かいに座った。スーツをびしっと着こなす完璧なサラリーマンのように、抜け目のない敬語で上品さを漂わせているイメージが強い勉しか見たことがなかった麗奈は、驚愕していた。
「お嬢様」
「は、はいっ」
「失礼をお許しください。もう少しだけ…」
麗奈は黙って頷いた。
「…行くな。ずっと傍にいろ」
勉はそう言って、麗奈を抱き寄せた。
「申し訳ございません、お嬢様。僕の無礼を…許してくださるなんて」
「無礼なんかじゃありませんよ。誰にだって、弱音を吐きたくなる時はあります。私で良ければ、お話…聞きますよ」
麗奈が微笑むと、勉は麗奈から一旦身を離し、声を上げた。
「ああ!」
「つ、勉さん…?」
「どうして貴女はそうやっていつも…」
勉は両手で髪の毛をわしゃわしゃと撫で回した。
「ごめんなさい」
麗奈は、悲しくなった。勉にまで自分は迷惑をかけているのかと思うと、自分が情けなくなった。
「お嬢様?」
急に謝り始めた麗奈を、不思議そうに勉は見つめた。
「私、勉さんに迷惑かけていますよね。ごめんなさい。もし気分を害されたようなら、お詫びさせてください。それでも許してくださらな…んっ、」
勉は麗奈の頬を両手で挟んだ。
「何か誤解なさっているのではありませんか」
「誤解?」
「ええ。僕は気分など害してもいませんし、迷惑などとは思ってさえいませんよ」
「でも…私、勉さんと喧嘩してしまったから」
麗奈は申し訳なさそうに俯いた。
「僕の方こそ、冷静さを失ってあろうことか、お嬢様に酷いことを…」
「いいんです、私なんて傷ついたって」
「そんなことを仰らないでください、お嬢様」
勉は麗奈の顔を優しく撫でた。
「勉さんは、いつからここに?」
「いつだったか、忘れてしまいました」
それほどまでに勉はずっと、この場所で待っていたのかと思うと、麗奈は申し訳なくて罪悪感でいっぱいだった。
「ごめんなさい…私…、勉さんにこんなことをさせるだなんて」
「お気になさらないでください、お嬢様」
「でも…」
自分を責める麗奈に、勉は笑顔で言った。
「待つのは、慣れています。いつも、お嬢様は僕を待たせてばかりですからね」
「ごめんなさい…っ」
「いいんです。意外と、好きなんですよ。お嬢様を待つの」
「待つのは、辛くありませんか?いつも待たせてしまいますよ、私。勉さんのこと…」
「構いませんよ。お嬢様のマイペースには、慣れました」
勉は、麗奈の両手を握った。
「嘘です、慣れただなんて。慣れるわけないんです。私いつも勉さんを待たせてしまう…」
「構わないと申し上げている筈です。それに、お嬢様にやっと会えた。それだけで僕は夢見心地です」
「夢じゃありません!現実ですっ」
「そうですね」
勉は笑った。
「お嬢様、仲直り、しましょうか」
「はいっ!」
勉は、自分の指と麗奈の指を絡めた。麗奈は頬をピンクに染め、勉は照れる麗奈をじっと見つめていた。
「お嬢様」
「何ですか?」
勉は麗奈にぐっと顔を近づけて言った。
「お嬢様、貴女を愛しく思っておりました。お会いしとうございました」
「私もです」
勉と麗奈は、熱い抱擁を交わした。
なぜならー
決して離すまいと言わんばかりに、麗奈の左手首はしっかりと勉の右手に掴まれていたからだ。
「勉さん…?」
麗奈は目を丸くした。
「…な」
「えっ?」
勉が何を言おうとしていたのか聞き取れず、麗奈は聞き返した。
「…行くな」
「えっ、勉さん、あの…」
麗奈は驚いた。
座って、と勉は床を指でとんとん、と叩いた。麗奈はちょこん、と勉の向かいに座った。スーツをびしっと着こなす完璧なサラリーマンのように、抜け目のない敬語で上品さを漂わせているイメージが強い勉しか見たことがなかった麗奈は、驚愕していた。
「お嬢様」
「は、はいっ」
「失礼をお許しください。もう少しだけ…」
麗奈は黙って頷いた。
「…行くな。ずっと傍にいろ」
勉はそう言って、麗奈を抱き寄せた。
「申し訳ございません、お嬢様。僕の無礼を…許してくださるなんて」
「無礼なんかじゃありませんよ。誰にだって、弱音を吐きたくなる時はあります。私で良ければ、お話…聞きますよ」
麗奈が微笑むと、勉は麗奈から一旦身を離し、声を上げた。
「ああ!」
「つ、勉さん…?」
「どうして貴女はそうやっていつも…」
勉は両手で髪の毛をわしゃわしゃと撫で回した。
「ごめんなさい」
麗奈は、悲しくなった。勉にまで自分は迷惑をかけているのかと思うと、自分が情けなくなった。
「お嬢様?」
急に謝り始めた麗奈を、不思議そうに勉は見つめた。
「私、勉さんに迷惑かけていますよね。ごめんなさい。もし気分を害されたようなら、お詫びさせてください。それでも許してくださらな…んっ、」
勉は麗奈の頬を両手で挟んだ。
「何か誤解なさっているのではありませんか」
「誤解?」
「ええ。僕は気分など害してもいませんし、迷惑などとは思ってさえいませんよ」
「でも…私、勉さんと喧嘩してしまったから」
麗奈は申し訳なさそうに俯いた。
「僕の方こそ、冷静さを失ってあろうことか、お嬢様に酷いことを…」
「いいんです、私なんて傷ついたって」
「そんなことを仰らないでください、お嬢様」
勉は麗奈の顔を優しく撫でた。
「勉さんは、いつからここに?」
「いつだったか、忘れてしまいました」
それほどまでに勉はずっと、この場所で待っていたのかと思うと、麗奈は申し訳なくて罪悪感でいっぱいだった。
「ごめんなさい…私…、勉さんにこんなことをさせるだなんて」
「お気になさらないでください、お嬢様」
「でも…」
自分を責める麗奈に、勉は笑顔で言った。
「待つのは、慣れています。いつも、お嬢様は僕を待たせてばかりですからね」
「ごめんなさい…っ」
「いいんです。意外と、好きなんですよ。お嬢様を待つの」
「待つのは、辛くありませんか?いつも待たせてしまいますよ、私。勉さんのこと…」
「構いませんよ。お嬢様のマイペースには、慣れました」
勉は、麗奈の両手を握った。
「嘘です、慣れただなんて。慣れるわけないんです。私いつも勉さんを待たせてしまう…」
「構わないと申し上げている筈です。それに、お嬢様にやっと会えた。それだけで僕は夢見心地です」
「夢じゃありません!現実ですっ」
「そうですね」
勉は笑った。
「お嬢様、仲直り、しましょうか」
「はいっ!」
勉は、自分の指と麗奈の指を絡めた。麗奈は頬をピンクに染め、勉は照れる麗奈をじっと見つめていた。
「お嬢様」
「何ですか?」
勉は麗奈にぐっと顔を近づけて言った。
「お嬢様、貴女を愛しく思っておりました。お会いしとうございました」
「私もです」
勉と麗奈は、熱い抱擁を交わした。