愛は貫くためにある
麗奈が部屋の窓から外を眺めていると、携帯電話が震え出した。麗奈は慌ててバジャマのポケットから携帯を取り出した。画面には着信の文字が踊っている。相手は勿論、婚約者からだ。
「勉さん…?」
「お嬢様、夜分遅くに申し訳ありません。今、お話しても、よろしいでしょうか?」
「はい、もちろんです。どうなさいましたか?」
「夜分遅くに迷惑とは思ったのですが…貴女のお体が心配のあまり、眠れそうにありませんので、そちらへ伺おうと存じまして」
麗奈は驚きながらも、平静を装って言った。
「大丈夫です、大丈夫ですから!そんなに酷くはありませんし」
「いいえ、心配で寝不足になりそうです。お嬢様の無事を確認しなくては気が済みません」
「そんな、無事だなんて大袈裟な…」
「いいえ、大袈裟ではありません。お嬢様にもしものことがあっては、申し訳がたちません。どうか、お見舞いに参上することを、お許しください。あと5分ほどで到着できるかと思いますので。お嬢様…もう少しの辛抱ですよ。やっと貴女に会える…」
勉は吐息交じりに言った。
「えっ!?5分ほどで!?」
「ええ。そちらへ向かっておりますので、ご安心ください」
麗奈は慌てた。時刻は夜の11時を回ろうとしていた。
「お嬢様?僕が来ては不都合なことでもあるのですか?」
「ち、違います…!だって、こんな夜遅くに…」
「…なるほど、わかりました」
「えっ…!?な、何がわかったんですか!?」
麗奈の慌てた声に、勉は笑った。
「何も、恥ずかしがることはないのですよ?夜分遅くに、男と女が二人きりになってすることといえば、決まっています」
「そ、そんな…そんな…」
困惑する麗奈の声に満足したのか、勉は優しく言った。
「意地悪なことを言ってしまいましたね。今宵は、何も致しません。お嬢様の体調は万全ではありませんからね。今宵はお見舞いとして伺うだけですので、ご安心ください」
「良かった…」
麗奈はそっと胸を撫で下ろした。
「しかし、近いうちに…色良い返事を聞きたいと思っております」
「えっ…あ、あの…」
「ふ…その話は、お嬢様の体調が回復なさってからです。到着次第、お嬢様のお家のベルを鳴らしますので、開けてくださいますね?」
「私、が…」
「ええ。お体が辛いようであれば、僕の方からお嬢様のお部屋に伺い…」
「わ、わかりました。私が開けます…!」
それだけは駄目だと、麗奈は勉の言葉を遮った。
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