愛は貫くためにある
「実は、前にも階段から落ちてしまったことがあって。その時に怪我をしてしまったんです。大怪我ではないんですけれど、念のため包帯を…」
「…なるほど」
勉は溜息をついた。
「原因は、ハイヒールでは?」
麗奈は、外出する際や勉に会う時は決まってハイヒールを履いているのだ。
「大丈夫ですから…」
「無理をすると、足を痛めることにもなりかねません。あまり無理をなさらず、そのままのお嬢様でいてください」
「勉さん…ありがとうございます」
麗奈は勉に頭を下げた。
「お嬢様のそういう…謙虚なところが好きです」
「勉さん…」
勉の射抜くような視線に麗奈は困惑していたが、勉のストレートな言葉は素直に嬉しかった。
「お嬢様の…」
勉が麗奈に顔を近づけていく。
「柔らかく眩しい、素敵な笑顔が好きです」
麗奈の頬に勉の手が添えられたかと思うと、すぐに勉と麗奈の唇は重なった。
「きらきらとした綺麗な目で、貴女は僕を見てくださいます。その目も、好きです。ずっと僕を見続けてほしい…。いつも、僕に笑顔を向けてくださる貴女が僕はどうしようもなく大好きです。愛しています」
「勉さん、嬉し…んッ」
勉は再び麗奈の唇を塞いだ。二人の唇はなかなか離れずにいたが、大きな咳払いが二人の甘い時間を中断した。
「勉くん、君は夜な夜な何をしているのかね?」
「申し訳ございません、彰人様。お嬢様の体調が芳しくないとお聞きしたので、お見舞いに…」
「思っていたよりも体調が良さそうで安心して、我慢できずに接吻をしていたというわけだな?」
「はい、申し訳ございません。大切なお嬢様を…」
「いや、いいんだ。麗奈は大切でもなんでもない」
「彰人、様…?」
彰人の思いがけない言葉に、勉は驚きを隠せなかった。
「勉くん、麗奈を貰ってくれるか?」
「彰人様?」
「麗奈は、私達の実の子ではないのだ。養子なのだよ」
「養子…?」
勉は麗奈を見た。麗奈は、俯いていた。
「ああ。麗奈は小さい頃からマイペースで、手を焼いたものだ。亜里紗に似ず無愛想で、頭も悪い。迷惑ばかりかけて、私達を困らせてばかりだ」
溜息をついた彰人は、麗奈を冷たい目で見ていた。隣にいる麗奈をちらりと見た勉は、麗奈の手が震えていることに気づいた。麗奈は涙を必死で堪えていた。

「いえ、お嬢様はとても素敵な方です」

その言葉に、麗奈は顔を上げた。

「ほほう、そんなに麗奈が好きかね」
「ええ、愛しています」
「それでは、麗奈を貰ってくれるね?」
勉は麗奈の顔を覗き込み、右手を優しく擦りながら言った。
「はい、勿論です。お嬢様は僕が幸せにします。お嬢様を…僕にください」
勉は立ち上がり、深々と彰人に頭を下げた。
「良かったな、麗奈。…勉くん、麗奈をすぐにでも持ち帰って構わないぞ」
「彰人様、申し訳ございませんが色々と準備もございますので…」
「そうだな。準備が出来たら言ってくれ。すぐにでも麗奈をやるからな」
彰人は満足げに笑った。
勉は、座ったまま黙りこくる麗奈を見た。麗奈の頬には、涙が伝っていた。
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