愛は貫くためにある
二人で過ごす初めての夜は、清らかなものだった。彰人にひどい言葉を投げつけられた麗奈の目からは、涙がぼろぼろと零れて止まらなかった。麗奈の涙を指で何度も勉は拭った。
「お嬢様。今宵はずっと、貴女の傍にいます」
「今宵だけですか…?」
麗奈が不安そうに言うので、勉は、
「いいえ、ずっと貴女を離しませんよ」と麗奈の髪を撫でた。麗奈の許可を得て、勉は麗奈の部屋に入った。

ベッドに腰掛ける麗奈に促され、勉は麗奈の隣に座った。
「驚いたでしょう?お父様の言葉」
先に口を開いたのは、麗奈だった。
「ええ。お嬢様が養子だったとは…思いもよりませんでした」
勉は麗奈を見つめた。確かに麗奈と亜里紗を見比べると、性格も雰囲気もまるで違う。最初麗奈に会った時は、本当に姉妹なのかと疑ってしまったくらいだ。養子だというのなら、姉の亜里紗に良く思われていないことも、彰人が麗奈をまるで物であるかのような酷い扱いをしていることも、頷ける。
「彰人様の言い方は、あまりにも酷い」
「いいんです、慣れていますから」
「慣れるだなんて…」
「お父様の期待に応えられない私が悪いんです」
麗奈の左手をそっと握った勉は、握った手に力を込めた。
「お嬢様…僕がいます。一人では、ありません」
麗奈は黙って頷いた。
「お嬢様…そろそろ寝ましょう。翌日に支障が出ぬように」
勉はゆっくりと麗奈の右肩を押し、左手は麗奈の手と絡めながらベッドに倒れ込んだ。麗奈の頬が上気していく。
「や、やだ…勉さん」
「申し上げたではありませんか。僕は今宵、貴女と添い寝すると」
勉は麗奈としばし見つめ合い、二人はベッドに潜り込んだ。近すぎる勉との距離に戸惑いを隠せなかった麗奈だが、勉の温もりを求め、勉に絡められた手に更にぎゅっと力を込めた。
「眠れませんか?」
勉は麗奈と向かい合って言った。
「どきどきして眠れません」
「それは困りましたね」
「困っているのは私の方です」
「困り顔も可愛いですよ」
「勉さんのせいで眠れません」
「拗ねているところも可愛い…」
「勉さんったら…」
互いに見つめ合う二人は、笑みを零した。
「何もしないと、約束してくださいますか?」
「ええ、約束します」
「良かった…」
「お嬢様、おやすみなさいませ」
勉は麗奈の髪を撫でながら言った。
「はい…おやすみ、なさい…」
麗奈は静かに目を閉じた。
「…お嬢様の無防備な姿が、僕にとっての最高の褒賞です。僕に気を許してくださっている、何よりの証拠ですからね。何もしないのは恐らく今宵だけ、ですよ」
寝静まった麗奈の部屋でぎらりと目を光らせながら、勉は麗奈の額に唇を這わせた。
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