愛は貫くためにある

救世主は天才画家

「んうう、見つかっちゃったよ…」
麗蘭はそう言いながらも、なかなか立ち上がろうとしない。すると、がたっと物音がしたがその場は静まり返った。佐久間はいつものように営業時間終了間際に来て、少しばかりのこの時間を楽しんでいる。

「麗蘭ちゃん」

佐久間の声が、麗蘭の頭上から聞こえてきた。驚いて麗蘭が顔を上げると、麗蘭のすぐ近くに立っている佐久間がいた。

「い、いつの間に!」

佐久間は、店員しか入れないカウンターの中へと入り、しゃがみこむ麗蘭を見ていたのだ。驚いた麗蘭は俯いた。

「驚かせてごめんね」

麗蘭の目の前にしゃがんだ佐久間は、麗蘭と視線を合わせた。
麗蘭は佐久間の声に顔を上げた。

「いいえ、わたしこそ、かくれんぼしちゃってごめんなさい」
「いいんだよ。でも、隠れてばかりじゃ困るな?」
「はーい」
麗蘭はにっこりと笑った。
「あの、佐久間さん」
「ん?なに?」
「さっき、何をしていたんですか?スケッチブックに何か書いていたみたいですけど」
「ん?気になる?」
「そ、そりゃあ気になりますよ」
麗蘭は佐久間を真っ直ぐな目で見つめた。
「ん、わかった。こっちおいで」
そう言って佐久間は、麗蘭の手を取りカウンターの外へ出て先程座っていた席へと戻った。

「座って」
佐久間は、自分が座っていた椅子の隣を指さした。麗蘭は頷いて座ろうとしたが、佐久間はやんわりと阻止した。
「?」
麗蘭は首を傾げて佐久間を見た。
「はい、どうぞ」
佐久間が椅子を引いて麗蘭に座るよう促した。
「あっ、ありがとう、ございます…」
麗蘭が座ると、佐久間は麗蘭の隣に座った。佐久間の座った席のカウンターには、一冊のスケッチブックがあった。スケッチブックはそれほど分厚くはなかった。

「はい、これ」
佐久間が麗蘭にスケッチブックを手渡した。
「えっ?あの、佐久間さん?」
「いいよ。見て」
「でも」
「見て欲しいんだ。麗蘭ちゃんに」
「わたしに…?」
「うん。素直な感想を聞きたい」
「感想…」
麗蘭はスケッチブックを受け取った。
「感想っていっても、わたし素人だし何もわからない…」
「それでいいんだ。麗蘭ちゃんの素直な感想を聞きたいんだから、思ったことを言っていいよ」
そう言って佐久間は、麗蘭の右手を握りスケッチブックを捲らせようとした。麗蘭は驚いて隣にいる佐久間を見た。
「ほら、早く見てよ」
「は、はい…」
佐久間は静かに手を離すと、スケッチブックを捲り始めた麗蘭を見た。
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