愛は貫くためにある
「わあああ〜!」
麗蘭が高い声を響かせた。
「すごい!」
麗蘭がきらきらと目を輝かせているのを見て、佐久間は頬を緩ませた。
「すごい!」
「麗蘭ちゃん」
「すごい」
「麗蘭ちゃん」
「あ、はい…」
佐久間のスケッチブックを見て夢中になっていた麗蘭は、佐久間が肩に触れたことに気づき我に返った。
「どうかな?」
「すごいです!」
目を輝かせながら麗蘭は佐久間を見た。

「例えば、どこが?」
「全部です!」
佐久間はぷっ、と吹き出して笑った。
「どうして笑うんですか〜!」
「いや、だってさ、全部って」
「だって全部すごいんです」
「ありがとう」
再びスケッチブックに目を落とす麗蘭に、佐久間が言った。
「特にどこが?」
「まるで…写真を見てるみたい。観察力がすごいと思います。繊細なタッチ、っていうんでしょうか…」
「なるほど」
他には?と佐久間は麗蘭に尋ねた。
「うーん、すごいとしか言いようがないんですけど…」
「けど?」
「臨場感?って言うんでしょうか…。まるでその場にいるような感覚になるんです。本当にすごい…画家みたい」
「嬉しいなあ、そんなふうに言ってくれるのは」
佐久間は照れていた。
「本当のことを言っただけです」
「それでも嬉しい。ありがとう」
「いいえ…」
麗蘭は床を見つめた。
「ま、僕は画家なんだけどな」
「えっ?」
佐久間の呟きを麗蘭は聞き返した。
「……僕は、画家だ」
「ええっ!?佐久間さん、画家なんですか!?」
麗蘭が驚いてスケッチブックの絵と佐久間を何度も見比べていた。
「あのさ…そんな信じられない?」
「いえ…そうじゃなくて」
「じゃなくて?」
「佐久間さん、お洒落だからファッションとかそういうのだと思ってて…」
「よく間違われるけどね。ファッション業界の人かって」
佐久間は苦笑いした。
「この絵、とてもすごいです…さすが、画家さん」
麗蘭はスケッチブックに書かれた、鉛筆で書いたであろう風景画を見つめた。
「そんなことないよ。これでも、試行錯誤したりしてるんだよ?」
「えっ?そうなんですか?」
そんな風には見えない、と麗蘭は思った。
「そんな…だって、こんなに完璧そうな絵なのに…」
「自分が思い描いたものじゃなかったら、最初から書き直す」
「最初からですか!?途中で直すとかじゃなくて」
「そうだよ。納得いかないし最初から書き直すよ」
大変ですね、と麗蘭は言った。
「次のページも捲ってごらん」
「次のページ?」
麗蘭は、スケッチブックを捲り、二枚目の絵を見た。

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