愛は貫くためにある
嫌な予感がした。気のせいであってほしいと願うが、そんなに現実は甘くなかった。

美優と喧嘩してしまった守は仲直りをしようと試みるも、美優は口もきいてくれなかった。
そんな状況を打開しようと、守は美優の部屋を訪れた。
「みーちゃん、入るよ?」
守は、美優の部屋のドアを叩いた。何度声をかけても、返事はない。
まだ不機嫌なのかと溜息をつきながら、ゆっくりとドアを開ける。
「みーちゃん、もう朝だよ。いつまで寝てるつもり?いつまで拗ねてるー」
ドアを開けて一歩踏み込み顔を上げると、そこには美優の姿はなく、
風に舞うカーテンがゆらゆらと揺れているだけだった。
「みーちゃん…?」
守は美優の部屋を歩き回って、美優を探した。
どこかに隠れていないかと探し回るが、美優は見つからなかった。
ピンク色に統一された、見慣れた部屋。なくなっているものはない。
財布も部屋にあった。不審な点も見当たらない。
「抜け出す、なんてことは…ないよな」
美優がそんなことをするわけがない、と守は思った。
しかし守の嫌な予感は的中することとなる。

「ここにいたの?」
「ああ、由美か」
「何よその言い方!失礼ね」
「ごめんごめん」
「まだ、見つからないの?」
「うん、どこに隠れちゃったのかな」
由美は、守が寂しそうに美優の部屋にある椅子に座った。
「すぐ帰ってくるわよ。脱走なんて、あの子にはできないわよ」
僕もそう思いたい、と守は呟いた。
「まだ三日じゃない。大丈夫だって」
「だよな。財布も…置きっぱなしだし」
財布も置きっぱなしで出ていくことなど、ありえない。
もし本当にキユウを出ていったのだとしたら、財布くらいは持っていくはずだ。
食事をするのにも金銭は必要だ。それを置いていくということは、
すぐに帰ってくることを物語っているのも同然だ。
キユウで過ごす者は皆、思っていた。しかしその考えが、甘かった。

守は、いつものように学校から帰ってきてすぐに美優を探した。
最初は職員もキユウで過ごす仲間も探してくれていた。
しかし時が経つにつれ、仲間達も勉強や部活が忙しくなったり里親に引き取られたりして
美優を探すのは守だけになってしまった。
勿論声掛けはしたが、そんなことをしている暇はないと断られてしまった。
守は一人になっても、美優を探し続けた。しかし美優は、一向に見つからない。
「ねえ、もうやめたら?」
振り向くと、制服を着た由美が立っていた。
「なんて言った?」
「もうやめたら、って言ったの」
「やめないよ。みーちゃんはきっと、どこかにいる。だから僕は」
「どこにいるのよ?闇雲に探したって時間の無駄。そんなことしてる暇あったら…」
守は、由美に近づき肩を掴んだ。
「由美、いい加減にしろ」
「だって、仕方ないじゃない!」
「みーちゃんが失踪したのは、由美のせいでもあるんだぞ?」
「私は悪いことしたなんて思ってない」
由美は悪びれもせずに、守の目を見て言った。
「もう無駄よ、探したって。無事でいる確証はないんだから」
「わからないだろ?そんなことは」
そう言って守は、由美の横を通り過ぎた。由美は慌てて守の背中に向かって叫んだ。
「もう一年も経ってるのよ!」
守はふと足を止め、由美の方を振り返った。。
「まだ一年じゃないか」
守はそう言い残し、静かに去っていった。
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