愛は貫くためにある
「麗蘭ちゃん」
桃と春彦が麗蘭の部屋に入ってきた。
「はいこれ」
「春彦さん?これは?」
「佐久間さんのスケッチブックだよ」
麗蘭は、いりません、と言ったが春彦は譲らない。
「是非見てほしい絵があるから、だから全部見てほしいって。このスケッチブックは麗蘭ちゃんにあげるって佐久間さんが」
桃が、見てみようよと麗蘭を見て言った。麗蘭は、スケッチブックを少しずつ捲り始めた。街を行き交う人々を描いたものや、公園、それから自然を書くのが好きだと言っていた風景画もたくさんあった。カフェ・テリーヌの絵もたくさんあって、いろいろな角度から書かれたその絵は、和哉にしか書けないものだった。しかも、どの絵にも色が塗られて写真のように輝いて見えた。
「最後のページね」
麗蘭が、桃の声に顔を上げた。
「最後のページが、自信作なんだって」
春彦の言葉に目を瞬かせた麗蘭は、最後のページを捲った。

「わああ〜!!」

麗蘭は声を上げ目をきらきらさせた。

「これって……」

麗蘭は、最後のページに書かれた絵をじっと眺めた。

その絵は、カフェ・テリーヌの店内を背景に、麗蘭がカウンター席の椅子から立ち上がり、ふと後ろを振り向いたところを描いていた。
絵の中の麗蘭は眩いほどの笑顔で、振り返った先には何があるのだろうと考え込んでしまうほどの完成度の高いものだった。

「これって、わたし…?」

そうだよ、と春彦が言った。
「よほど麗蘭ちゃんが好きなのね、佐久間さんは」
「そんなことありません」
「あるのよ、それが。そのページに、何か書いてるでしょ」
「えっ?あっ、本当だ」
麗蘭は、絵の右下に小さめの文字があるのを見つけた。

『大好きな麗蘭ちゃんへ
麗蘭ちゃん、愛してる。
僕の、大切な人になってくれないか。
これは、本当のことだから。
僕は本気だから。
僕だけの麗蘭ちゃんでいてほしい。
僕のことだけを見ていて欲しい。

来週の日曜日、いつもの時間で
この喫茶店で会おう。

佐久間 和哉 』



麗蘭は、驚きと嬉しさのあまりスケッチブックを何度も触った。

「佐久間さん……」

麗蘭はスケッチブックを手に取り、抱きしめ佐久間の名を何度も口にしていた。


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