愛は貫くためにある
オレンジの色鉛筆を手に持ちながらも、一向に塗り絵をしようとしない麗蘭を見て、和哉は溜息をついた。
「塗らないのかよ」
麗蘭はびくっと肩を震わせた。
麗蘭は和哉の言葉には何も答えず、黙っていた。
「…貸せ」
麗蘭の手にあった色鉛筆を奪い取り、和哉は色を塗り始めた。
和哉は、鉛筆で書いた輪郭をなぞるようにして黄色の色鉛筆でなぞった。それからチューリップをオレンジ色に塗っていった。
(すごい…グラデーションがすごい。綺麗。さすがだなあ…)
次々と、和哉は黙々とモノクロの絵に色をつけ始めていく。モノクロの世界が、だんだんと明るさを増し輝きを放つ。天才というのは、和哉のことを言うのだと改めて麗蘭は思った。
だからこそ、和哉が遠く手の届かない人のように感じてしまう。ふとした瞬間に、感じてしまうのだ。
(かずくんは…わたしとは住む世界が全く違う。かずくんの住む世界は光が溢れる世界で、わたしの住む世界は闇の世界…)
麗蘭が唇を噛んだ。
(何もかもが違いすぎるんだ)
「よし、これくらいでいいかな。麗蘭」
和哉が、麗蘭を振り返り色のついた絵を手渡した。
「すごい…」
「まあな。自信作」
和哉はにっこりと笑った。
しかし、麗蘭の顔は曇ったままだ。
「麗蘭?どうしたんだよ」
「なんでもありません」
「嘘つけ。元気ない」
「大丈夫ですから」
「麗蘭」
和哉が、麗蘭をふわりと抱きしめた。
「まだ、怒ってるか?」
「いいえ」
「それならどうして?」
「なんか……いつも、かずくんに迷惑かけちゃうなあって」
「別に、迷惑なんかじゃないよ」
和哉は麗蘭の肩を掴んで言った。
「麗蘭、僕は麗蘭が大好きだから」
「ありがとうございます」
麗蘭は寂しげに笑った。
「麗蘭、一緒に塗り絵しよう。まだあるんだ。今日のために書いたんだ」
和哉は、麗蘭と塗り絵をするために仕事とは別に絵を書いたのだという。
どうして、そこまでしてくれるのだろう、と麗蘭は思った。
と同時に申し訳ないとも思った。
その分、睡眠を削っているのだとしたら申し訳ない。和哉に無理をさせているのは明らかに自分だと、麗蘭はそう思った。
「ほら、塗り絵塗り絵」
楽しそうに目を細める和哉との雰囲気を壊してしまうことになることはわかっていた。しかし、言わずにはいられなかった。和哉の体のためにも、これ以上無理に仕事以外で絵を書くことなどしなくてもいいと。
私が絵を見たいとばかり言ったせいで、和哉は無理をしている。
「かずくん、もうわたしのために絵なんて書かないでください」
「…は?」
「仕事のためにだけ、絵を書いて。わたしのために絵を書いて、無理なんてしないでください」
「なにいってんだよ」
「もういいんです。塗り絵のための絵を、書いてくれなくても十分ですから」
「僕は、麗蘭に見て欲しくて書いてるんだぞ?なんだよ…麗蘭のために書いた絵なのに…無駄な時間を消費したな」
麗蘭は唇を強く噛んだ。
『無駄な時間を消費した』
その言葉がぐさりと麗蘭の心に突き刺さった。やっぱり、和哉は私といてはいけない。こんなすごい人となんて、やっていけるわけがないのに、どうしてだろう。きっと、二人で仲良く助け合っていけると、幸せになれると思ってしまったのは。
それは私の勝手な願望であり、所詮そんな願望は叶うはずのないものだったのに。叶うわけがないのに。なのに、私は幸せを求めてしまった。
麗蘭は、自分が情けなかった。
麗蘭は、和哉の部屋を無言で去った。
「塗らないのかよ」
麗蘭はびくっと肩を震わせた。
麗蘭は和哉の言葉には何も答えず、黙っていた。
「…貸せ」
麗蘭の手にあった色鉛筆を奪い取り、和哉は色を塗り始めた。
和哉は、鉛筆で書いた輪郭をなぞるようにして黄色の色鉛筆でなぞった。それからチューリップをオレンジ色に塗っていった。
(すごい…グラデーションがすごい。綺麗。さすがだなあ…)
次々と、和哉は黙々とモノクロの絵に色をつけ始めていく。モノクロの世界が、だんだんと明るさを増し輝きを放つ。天才というのは、和哉のことを言うのだと改めて麗蘭は思った。
だからこそ、和哉が遠く手の届かない人のように感じてしまう。ふとした瞬間に、感じてしまうのだ。
(かずくんは…わたしとは住む世界が全く違う。かずくんの住む世界は光が溢れる世界で、わたしの住む世界は闇の世界…)
麗蘭が唇を噛んだ。
(何もかもが違いすぎるんだ)
「よし、これくらいでいいかな。麗蘭」
和哉が、麗蘭を振り返り色のついた絵を手渡した。
「すごい…」
「まあな。自信作」
和哉はにっこりと笑った。
しかし、麗蘭の顔は曇ったままだ。
「麗蘭?どうしたんだよ」
「なんでもありません」
「嘘つけ。元気ない」
「大丈夫ですから」
「麗蘭」
和哉が、麗蘭をふわりと抱きしめた。
「まだ、怒ってるか?」
「いいえ」
「それならどうして?」
「なんか……いつも、かずくんに迷惑かけちゃうなあって」
「別に、迷惑なんかじゃないよ」
和哉は麗蘭の肩を掴んで言った。
「麗蘭、僕は麗蘭が大好きだから」
「ありがとうございます」
麗蘭は寂しげに笑った。
「麗蘭、一緒に塗り絵しよう。まだあるんだ。今日のために書いたんだ」
和哉は、麗蘭と塗り絵をするために仕事とは別に絵を書いたのだという。
どうして、そこまでしてくれるのだろう、と麗蘭は思った。
と同時に申し訳ないとも思った。
その分、睡眠を削っているのだとしたら申し訳ない。和哉に無理をさせているのは明らかに自分だと、麗蘭はそう思った。
「ほら、塗り絵塗り絵」
楽しそうに目を細める和哉との雰囲気を壊してしまうことになることはわかっていた。しかし、言わずにはいられなかった。和哉の体のためにも、これ以上無理に仕事以外で絵を書くことなどしなくてもいいと。
私が絵を見たいとばかり言ったせいで、和哉は無理をしている。
「かずくん、もうわたしのために絵なんて書かないでください」
「…は?」
「仕事のためにだけ、絵を書いて。わたしのために絵を書いて、無理なんてしないでください」
「なにいってんだよ」
「もういいんです。塗り絵のための絵を、書いてくれなくても十分ですから」
「僕は、麗蘭に見て欲しくて書いてるんだぞ?なんだよ…麗蘭のために書いた絵なのに…無駄な時間を消費したな」
麗蘭は唇を強く噛んだ。
『無駄な時間を消費した』
その言葉がぐさりと麗蘭の心に突き刺さった。やっぱり、和哉は私といてはいけない。こんなすごい人となんて、やっていけるわけがないのに、どうしてだろう。きっと、二人で仲良く助け合っていけると、幸せになれると思ってしまったのは。
それは私の勝手な願望であり、所詮そんな願望は叶うはずのないものだったのに。叶うわけがないのに。なのに、私は幸せを求めてしまった。
麗蘭は、自分が情けなかった。
麗蘭は、和哉の部屋を無言で去った。