愛は貫くためにある
約束を果たすとき
「あ、若。おかえりなさい」
「どうでした?」
拓真のレストランで働くこの二人の若者は、昔からの友人でもあり部下でもあった。
「感動の再会ですもんね」
「ひゅーひゅー!」
勝手に喜ぶ二人に対し、拓真は呆れたように言った。
「麗蘭には…彼氏がいた」
「は!?彼氏?」
「それって、裏切りってことじゃないっすかあ!」
「違うんだ」
「若!諦めちゃだめっすよ」
「そうっすよ!若を嫌いな女なんていませんよ!」
「健(たける)、お前…」
「あ、やべ」
すいません、と健が言った。
「ショックだったよ」
拓真はレストランのテーブル席に座った。部下の健と大知も座った。
「麗蘭は、待ってくれてるもんだと思って疑わなかったからさ」
拓真はテーブルを黙って見ていた。
「何十年も前の約束なんて、本気にするわけないよな」
「若…」
健と大知は、何を言えばいいのかわからなかった。
「麗蘭には、会わなきゃよかったのかもな」
拓真がこんなに悲しむ顔を、健と大知は見たことがなかった。
二人は、どうしたものかと首を捻った。
拓真が麗蘭と会わなくなってから、二ヶ月が経とうとしていた。
「すみません、ちょっといいですか」
赤い髪の青年が入ってきた。
営業時間外に入ってくるとは、何と非常識な奴だ。そう思い、拓真はその青年の元へ向かった。
「すみません、まだ開店してないんですよ」
「そうじゃなくて」
「若〜どうしたんすか?」
「た、健、お前…」
「あっ!すいません、オーナー…」
来客なのになぜ若と言うんだと、健を拓真は睨んだ。
「うわー、やっちまった。まじすいません」
健は頭を下げた。
大知は赤い髪の青年を黙って見ていた。
「ご要件がないのであれば、営業時間に来てください」
そう言って、拓真は客を追い出そうとした。
「僕は、麗蘭の彼氏です」
「……は?」
(麗蘭の、彼氏だと?
こんな派手なのが趣味なのか?
随分と個性的だな…)
そう思ったものの、麗蘭が好きになった男だ。良い男なんだろう。拓真はそう思った。
「麗蘭のことで、話があるんですけど」
それはつまり、麗蘭の心を乱すなということなのだろうと拓真は思った。
拓真は、赤い髪の青年をテーブル席へ案内した。
「あなたが、麗蘭の初恋の人ですか」
「初恋の人?」
拓真は首を傾げた。
健と大知は、しゃがんで物陰に隠れて拓真と赤い髪の青年の様子を伺っていた。
「僕は、画家の佐久間 和哉と申します」
「画家…」
「ええ、麗蘭と付き合ってます」
「そうですか…」
「麗蘭のことは、どう思っていますか」
「好きです」
「……」
和哉は黙った。
「僕は十年前から麗蘭が好きだった。今も好きです。嘘偽りはありません」
「そうですか」
「ですが、あなたのような恋人がいるのなら別です」
「というと?」
和哉は向かいに座る拓真を睨んでいる。
「麗蘭は、あなたといるととても幸せそうだ。だから…麗蘭を幸せにしてあげてください」
拓真は、こっそりとカフェ・テリーヌの近くを通った時に、麗蘭と和哉が楽しそうに話しながら手を繋いで歩いているところを目撃してしまった。とても幸せそうだった。拓真はそれを見てからというもの、ショックでしばらくは放心状態だったが、そんなことでレストランを休業するわけにもいかない。拓真は仕事のことだけを考えて、充実した毎日を送ってはいるものの、心にはぽっかりと穴が空いてしまった。
「どうでした?」
拓真のレストランで働くこの二人の若者は、昔からの友人でもあり部下でもあった。
「感動の再会ですもんね」
「ひゅーひゅー!」
勝手に喜ぶ二人に対し、拓真は呆れたように言った。
「麗蘭には…彼氏がいた」
「は!?彼氏?」
「それって、裏切りってことじゃないっすかあ!」
「違うんだ」
「若!諦めちゃだめっすよ」
「そうっすよ!若を嫌いな女なんていませんよ!」
「健(たける)、お前…」
「あ、やべ」
すいません、と健が言った。
「ショックだったよ」
拓真はレストランのテーブル席に座った。部下の健と大知も座った。
「麗蘭は、待ってくれてるもんだと思って疑わなかったからさ」
拓真はテーブルを黙って見ていた。
「何十年も前の約束なんて、本気にするわけないよな」
「若…」
健と大知は、何を言えばいいのかわからなかった。
「麗蘭には、会わなきゃよかったのかもな」
拓真がこんなに悲しむ顔を、健と大知は見たことがなかった。
二人は、どうしたものかと首を捻った。
拓真が麗蘭と会わなくなってから、二ヶ月が経とうとしていた。
「すみません、ちょっといいですか」
赤い髪の青年が入ってきた。
営業時間外に入ってくるとは、何と非常識な奴だ。そう思い、拓真はその青年の元へ向かった。
「すみません、まだ開店してないんですよ」
「そうじゃなくて」
「若〜どうしたんすか?」
「た、健、お前…」
「あっ!すいません、オーナー…」
来客なのになぜ若と言うんだと、健を拓真は睨んだ。
「うわー、やっちまった。まじすいません」
健は頭を下げた。
大知は赤い髪の青年を黙って見ていた。
「ご要件がないのであれば、営業時間に来てください」
そう言って、拓真は客を追い出そうとした。
「僕は、麗蘭の彼氏です」
「……は?」
(麗蘭の、彼氏だと?
こんな派手なのが趣味なのか?
随分と個性的だな…)
そう思ったものの、麗蘭が好きになった男だ。良い男なんだろう。拓真はそう思った。
「麗蘭のことで、話があるんですけど」
それはつまり、麗蘭の心を乱すなということなのだろうと拓真は思った。
拓真は、赤い髪の青年をテーブル席へ案内した。
「あなたが、麗蘭の初恋の人ですか」
「初恋の人?」
拓真は首を傾げた。
健と大知は、しゃがんで物陰に隠れて拓真と赤い髪の青年の様子を伺っていた。
「僕は、画家の佐久間 和哉と申します」
「画家…」
「ええ、麗蘭と付き合ってます」
「そうですか…」
「麗蘭のことは、どう思っていますか」
「好きです」
「……」
和哉は黙った。
「僕は十年前から麗蘭が好きだった。今も好きです。嘘偽りはありません」
「そうですか」
「ですが、あなたのような恋人がいるのなら別です」
「というと?」
和哉は向かいに座る拓真を睨んでいる。
「麗蘭は、あなたといるととても幸せそうだ。だから…麗蘭を幸せにしてあげてください」
拓真は、こっそりとカフェ・テリーヌの近くを通った時に、麗蘭と和哉が楽しそうに話しながら手を繋いで歩いているところを目撃してしまった。とても幸せそうだった。拓真はそれを見てからというもの、ショックでしばらくは放心状態だったが、そんなことでレストランを休業するわけにもいかない。拓真は仕事のことだけを考えて、充実した毎日を送ってはいるものの、心にはぽっかりと穴が空いてしまった。