愛は貫くためにある
「僕の麗蘭をどうしてくれるんですか!」
がたん、と和哉は勢いよく立ち上がって座っている拓真の近くへ行き、胸ぐらを掴んだ。
「わ、若…!」
健と大知が立ち上がって和哉を止めようとしたが、拓真は何の抵抗もせず和哉にされるがままになっていた。
「麗蘭は、あなたに会ってからというもの上の空で……麗蘭は、僕のことなど考えなくなってしまった」
「嘘です。麗蘭は、あなたのことが大好きなはずだ」
「いや。あなたに会ってからは、麗蘭は変わってしまった」
「変わった?」
「麗蘭とは喧嘩していて、仲直りしようと思っていたんだ。でも、そんな時にあなたが現れて麗蘭の心までも奪ってしまった」
和哉は、胸ぐらを掴んだまま拓真を立ち上がらせ、テーブルに強く押し付けた。
「返せよ。麗蘭を返せ」
「……そんなに大好きなら、麗蘭を離すなよ」
「麗蘭はな、あなたのことが好きなんですよ!初恋の人がずっと忘れられないって言ってたけど」

(麗蘭、教えてくれよ…初恋の人って、僕のことか?なあ、麗蘭…)

「その人は、だいぶ昔に会った人で知らない男に絡まれて襲われそうになったのを助けてくれたと。相談にも乗ってくれたし、良い人だったと」
麗蘭は楽しそうに話していた、と和哉は悔しそうに言った。
「その人は、ヤクザの若頭だということがわかった」

(僕だ、明らかにそれは僕だ。
麗蘭…僕達は、両想いだったんだよな?)


「ヤクザの息子としてではなく、堅気になって良い男になったら婚約者になって欲しいと、待っていろ、ともその男は言ったそうで」
和哉は更に力を込めて拓真を床に押し付けた。
「わ、若になんてことを…!」
大知が和哉を拓真から引き離そうとするも、拓真は、やめろと口で物語っていた。
「何の抵抗もしないんだな?」
「ああ、麗蘭が愛している男だからな。麗蘭が大好きな男に暴力を振るう男ほど、情けない男はいない」
「紳士ぶってるつもりかよ」
「いや。…麗蘭はとても綺麗になった。優しく上品な…淑やかな女性になった。それは、あなたといるからこそあんなに綺麗になったんだよ。僕じゃ…だめなんだ」
拓真は、抵抗もせずただただ静かにそう呟いた。
「ふうん…ヤクザの若頭だった男が、よく暴力を振るわないでこんなに大人しくしてられるもんだな」
「早く帰れよ…麗蘭が心配するぞ」
「いっとくけど同棲なんてしてないぞ」
「してない…?」
「してると思ったのか?」
てっきりそう思っていた、と拓真は思った。





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