愛は貫くためにある
「別れてほしいと言われた」
和哉が拓真を睨んで言った。
「麗蘭が、そんなことを言ったのか?」
ああ、そうだと和哉は言った。
「麗蘭は……お前に会って、昔のことを思い出したんだろうな」
和哉は深い溜息をついた。
「麗蘭を見つけた時、言ったんだって?」
「言ったって、何をだよ」
「やっと見つけたって」
麗蘭に逃げられて必死で探して、カフェ・テリーヌで麗蘭を見つけた時は、全身の力が抜けてしまうほどに安堵した。
「ああ、言ったよ」
「最初は、麗蘭もあんたのことを忘れようと必死だったみたいだけど、忘れられないって言うんだよ。すごく悩んだみたいで泣き腫らしてたけど」
「麗蘭が…」
「責任取れよ」
「責任?」
「約束したんだろ?麗蘭を婚約者にするって」
責任の取り方はわかるよな?と、和哉は言った。
和哉は拓真に馬乗りになっていたが、おもむろに立ち上がった。
拓真も立ち上がり、乱れた服を整えた。
「麗蘭を幸せにしなかったら、今度こそぶん殴るし、麗蘭を奪う」
「……わかった。麗蘭は幸せにする。約束するよ」
「約束する相手が違うだろ!」
「そう、だな」
拓真は呟いた。
「僕は、麗蘭を幸せにします。誰もが羨むくらいに。麗蘭はもう二度と離さない」
和哉は、店を出ていった。
出ていく直前、拓真の方を振り返りただ一言、こう言った。

「カフェ・テリーヌ、20時。麗蘭が待ってる」


和哉の言葉に、拓真は目を瞬かせた。

「若、よかったじゃないっすか」
健がにやりと笑った。
「麗蘭ちゃんと、両想いっすねえ」
「いや…まだ、そうと決まったわけじゃない」
「慎重っすねえ」
大知が言った。

拓真は怖かった。麗蘭は本当に自分のことを好きでいてくれているのかと。
大好きな和哉と無理に別れて、自分を選んだんじゃないかと。和哉と別れてしまったのは、確実に自分のせいであることはわかっていた。

『十年前の約束なんて本気にするわけないよな』

あの自分の言葉に、麗蘭は動揺してしまったのではないか。申し訳ないという思いから、和哉と別れることを決意したのではないかと、拓真の心は罪悪感でいっぱいだった。

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