愛は貫くためにある
そして麗蘭が、和哉と美術館へ行く日、麗蘭は胸を踊らせながら美術館へ行く用意をした。いつもよりお洒落な格好をしてネックレスとイヤリングをつけて髪もくるくるに巻いた麗蘭は、高鳴る胸を抑えながら、拓真の働くレストランへとやってきた。

「拓真さん!」

麗蘭が、裏口から拓真のレストランに入ってきた。

「お、麗蘭……ぐ、」

麗蘭を見た途端に拓真は口を手で抑え、背を向けた。

「えっ?どうしたんですか、拓真さん…?」

麗蘭は驚いて背を向けた拓真に駆け寄った。

「拓真さん、どうなさったんですか?」
麗蘭は心配していたが、拓真は麗蘭のあまりの可愛さに悶絶していた。
「拓真さん、具合でも悪いんですか?」
麗蘭の心配する声が聞こえるが、健と大知は我慢しきれずに腹を抱えて笑いだした。
「えっ?どうなさったんですか、健さんと大知さんまで…」
「姐御!心配することないっすよ」
「えっ、でも…」
笑い足りないのか、健はまだ笑っている。
「若は、お洒落をした姐御を見て悶絶してるんすよ。やべえ…まじで可愛い…ってたった今言ってまし…って、いてっ」
「大知…余計なことは言うな」
拓真の顔は赤くなっていた。
「赤くなってるじゃないっすか、若。ていうか、若が叩くとまじ痛いんすよ…まじ勘弁っす」
「大知……」
「すいませんっした」
「健。お前は笑いすぎだぞ」
「あっはっはっは!いや、はい。俺もそう思います」
「思うんならもう笑うな」
拓真は腕組をしていた。
「…まじすいません。いや、若、姐御にデレデレだからつい」
拓真は深く溜息をつき、言った。
「大知、健。あとで覚えとけ」
拓真が低い声で睨みつけて言うと、
「ひえええええ〜!怖いっす!」
と、健と大知は震え上がった。
「ふふふ」
麗蘭が笑った。
「何で笑うんだよ」
「仲良しなんですね」
「……いや、まあ」
拓真は頭を掻いた。
「姐御〜!助けてくださいよ。若が怒ったらまじで怖いんすよ〜」
大知が助けを求めて麗蘭の背中に隠れた。
「俺も助けてください、姐御!若はまじ怖いんすよ。だから、姐御からなんとか言ってくださいよ。姐御のいうことなら、若はなんでも聞くんで…」
健も麗蘭の背中に隠れた。
「あのなあ、お前ら…」
拓真は仁王立ちしていたが、麗蘭の目の前にやって来た。
「うおおお、まじ怖い」
「大知…若の後ろに真っ赤で巨大な炎がああ〜!!」
「あのなあ…麗蘭が困ってるだろ?
それに、僕を鬼みたいな言い方すんなよ」
麗蘭は笑っていた。
「あのな、いい加減麗蘭の背中から離れろ!どさくさに紛れて、麗蘭の背中に触れたいんじゃないのか…?離れろ」

そう言って拓真は、麗蘭から健と大知を引き離そうとしたが、麗蘭が拓真に抱きついた。麗蘭の背中には健と大知がくっついたままだった。
「麗蘭…?」
「あまり怒らないであげてください。わたしからのお願いです」
「…いや、でも」
「お願いします」
目を潤ませて拓真を見上げる麗蘭には勝てず、拓真は仕方ない、と降参した。
「わー、さすが姐御!あざっす!」
健が頭を下げた。
「姐御は優しいですわ、うん。俺、姐御が好きです」
「大知…お前だけあとで僕の部屋に来い」
大知は拓真に睨まれた。
「わ、若、違うんすよ。好きっていうのは、尊敬してるというか、その…愛してるの方じゃなくって!」
拓真は今すぐ部屋に来い、と目で合図をした。

「拓真さん」
「何だよ」
「ごめんなさい」
「なんだよ、急に」
「大知さんは、悪くないんです。だから許してあげてください」
「だめだ。そんなことをしていたらすぐにつけあがる。許してはおけん」
「若、すいませんでした…俺…」
「許してください、拓真さん」
「麗蘭が謝る必要ない」
「許してくれるまでわたし…」
麗蘭は大知と一緒に、床に頭をくっつけた。
「や、やめろよ麗蘭…!せっかくの可愛い格好が乱れるじゃないか」
「えっ…?拓真さん…?」
「やめろよ…麗蘭にそんなことさせようとなんて思ってないし……ああったく!仕方ねえな……今回だけは麗蘭に免じて許す。大知、麗蘭に感謝しろ」
「姐御おおおお〜〜!!」
大知が麗蘭に抱きついた。
「大知さんったら」
「ごめんなざいいいい」
「もういいんですよ。よかったですね、拓真さんからお許しが出ましたよ」
「よかっだっす、まじでよがった〜」
大知は泣きながら麗蘭に抱きついた。
麗蘭はぽんぽんと大知の背中を撫でた。
「…大知。三秒以内に麗蘭から離れろ」
大知は目を見開いて拓真を見た。
「3…2…」
「はいっ、離れました若っ!」
「……ん、よろしい」
「ふふっ。よろしい、だって」
麗蘭は大知と微笑んだ。
「麗蘭、こっち来い」
「どうしたんですか?」
にやりと笑う健と大知をよそに、麗蘭は拓真に手を引かれて拓真の部屋へと入った。
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