愛は貫くためにある
「若があまり昔のことを言いたがらないのは、姐御に嫌われたくないからっすよ」
(どういう、こと…?)
麗蘭は大知はまじまじと見つめた。
「いてててて!いってーよ、健」
「若が来てたらやばいって」
「まだ来てねーよ」
大知は、健に引っ張られて離された右耳を擦った。
「わたし、そんなことで拓真のこと嫌いになんてならない。
教えて、拓真の昔のこと。知りたいの、わたし」
麗蘭のキリッとした声に、大知と健は深く頷いた。
「わかった。姐御がそんなに言うなら、ちゃんと言うよ」
健が言った。
「若には、婚約者がいたんすよ」
「えっ……」
麗蘭は絶句した。
「あ、いや、その…婚約者というのは」
しどろもどろになった大知を見兼ねて、健が言った。
「大知、俺が言う。はっきり言わないと姐御にも失礼だからな」
健は麗蘭をじっと見た。
「若は、高澤組という組の若頭で、親同士の知り合いの八旗組のお嬢と婚約していました。
といっても、政略結婚という形ではあったんですけど」
「政略結婚…」
「その八旗組のお嬢は、組のお嬢とは思えないくらい従順で清楚な心のとても優しい人でした」
「姐御にすごく似てるんすよね」
大知がぼそっと言った。
「大知。余計なこと言うな」
「すいません、つい…」
(そのお嬢さまが、わたしに似てる…?)
混乱する麗蘭を宥めるように、大知は麗蘭の隣で、大丈夫っすから、と何度も呟いた。
「そのお嬢ー蘭子様は、とても体の弱い方で…でもとても優しくて純粋で素直で、政略結婚という名の婚約を交わしてはいたものの、二人の間にはすぐに愛が芽生えました」
(愛が、芽生えた…)
麗蘭は、ぐっと両手を握りしめた。
麗蘭の手は震えていた。
「若と蘭子様はとても仲が良くて、結婚も間近に迫っていた頃、蘭子様は事故にあったんです」
「えっ…」
麗蘭は目を見開いた。
「事故って」
「運転手は、飲酒をした後に軽い気持ちで運転をしていたと」
「飲酒運転ってこと!?」
「ええ、そうです。飲酒運転をして、かなりのスピードも出ていたそうです。たまたま外に出ていた蘭子様は、信号が青だったので横断歩道を渡っていたらー」
「そんな、ひどい…」
「なくなってしまったんすよ」
大知が唇を噛み締めながら言った。
「若は蘭子様を失った悲しみで魂が抜けたような状態になって、その寂しさを埋めるために若は…可愛い娘を見つけてはホテルに連れ込み…」
「じゃあ、あの時もそうだったんだ」
麗蘭は10年以上も前、拓真が女性とホテルへ入っていくことを目撃した時のことを思い出した。
「ええ、たぶんそうだと思います。
でも、姐御を見てはっとしたんでしょうね」
「わたしを、見て…?」
「ええ。蘭子様と姐御は、そっくりですからね」
「そっくりって…そんな」
「見た目も双子かと思うほど似ていて、華奢な体も心の優しいところも素直なところも純粋なところも…」
「そんなに…」
「若は、蘭子様が帰ってきたとそう喜んで」
「でも、蘭子様じゃなくて姐御だった」
大知がぼそっと言った。
「若は、姐御だとはわかっていたんです。でもどこかで、蘭子様の面影を重ねて…蘭子様にそっくりの姐御を気に入って、気づいたら姐御のことを…」
健は、麗蘭の顔を伺いながら静かに言った。
(どういう、こと…?)
麗蘭は大知はまじまじと見つめた。
「いてててて!いってーよ、健」
「若が来てたらやばいって」
「まだ来てねーよ」
大知は、健に引っ張られて離された右耳を擦った。
「わたし、そんなことで拓真のこと嫌いになんてならない。
教えて、拓真の昔のこと。知りたいの、わたし」
麗蘭のキリッとした声に、大知と健は深く頷いた。
「わかった。姐御がそんなに言うなら、ちゃんと言うよ」
健が言った。
「若には、婚約者がいたんすよ」
「えっ……」
麗蘭は絶句した。
「あ、いや、その…婚約者というのは」
しどろもどろになった大知を見兼ねて、健が言った。
「大知、俺が言う。はっきり言わないと姐御にも失礼だからな」
健は麗蘭をじっと見た。
「若は、高澤組という組の若頭で、親同士の知り合いの八旗組のお嬢と婚約していました。
といっても、政略結婚という形ではあったんですけど」
「政略結婚…」
「その八旗組のお嬢は、組のお嬢とは思えないくらい従順で清楚な心のとても優しい人でした」
「姐御にすごく似てるんすよね」
大知がぼそっと言った。
「大知。余計なこと言うな」
「すいません、つい…」
(そのお嬢さまが、わたしに似てる…?)
混乱する麗蘭を宥めるように、大知は麗蘭の隣で、大丈夫っすから、と何度も呟いた。
「そのお嬢ー蘭子様は、とても体の弱い方で…でもとても優しくて純粋で素直で、政略結婚という名の婚約を交わしてはいたものの、二人の間にはすぐに愛が芽生えました」
(愛が、芽生えた…)
麗蘭は、ぐっと両手を握りしめた。
麗蘭の手は震えていた。
「若と蘭子様はとても仲が良くて、結婚も間近に迫っていた頃、蘭子様は事故にあったんです」
「えっ…」
麗蘭は目を見開いた。
「事故って」
「運転手は、飲酒をした後に軽い気持ちで運転をしていたと」
「飲酒運転ってこと!?」
「ええ、そうです。飲酒運転をして、かなりのスピードも出ていたそうです。たまたま外に出ていた蘭子様は、信号が青だったので横断歩道を渡っていたらー」
「そんな、ひどい…」
「なくなってしまったんすよ」
大知が唇を噛み締めながら言った。
「若は蘭子様を失った悲しみで魂が抜けたような状態になって、その寂しさを埋めるために若は…可愛い娘を見つけてはホテルに連れ込み…」
「じゃあ、あの時もそうだったんだ」
麗蘭は10年以上も前、拓真が女性とホテルへ入っていくことを目撃した時のことを思い出した。
「ええ、たぶんそうだと思います。
でも、姐御を見てはっとしたんでしょうね」
「わたしを、見て…?」
「ええ。蘭子様と姐御は、そっくりですからね」
「そっくりって…そんな」
「見た目も双子かと思うほど似ていて、華奢な体も心の優しいところも素直なところも純粋なところも…」
「そんなに…」
「若は、蘭子様が帰ってきたとそう喜んで」
「でも、蘭子様じゃなくて姐御だった」
大知がぼそっと言った。
「若は、姐御だとはわかっていたんです。でもどこかで、蘭子様の面影を重ねて…蘭子様にそっくりの姐御を気に入って、気づいたら姐御のことを…」
健は、麗蘭の顔を伺いながら静かに言った。