愛は貫くためにある
「わたしは、確かにこの世にはいない人間よ。でも、たっくんが忘れられなくて会いに来たの」

(たっくん…)

麗蘭は、黙って俯いた。
「たっくんから、麗蘭ちゃんを奪おうとは思ってないの。期間限定だから」
「期間限定?」
麗蘭は首を傾げた。
「そ。神さまがチャンスをくれたの。わたしにね」
そんなことって、果たしてあるのだろうかと麗蘭は首を捻った。
「たっくんは、本当に麗蘭ちゃんが好きみたいね」
「そんなことありません」
「あら、喧嘩したの?」
麗蘭は黙った。

そんな麗蘭を見て、蘭子は麗蘭の手を引っ張り歩きだした。
「ちょっと、どこへ行くんですか…?」
「決まってるでしょ。たっくんのとこ」
「ええ…?」
麗蘭は困惑しながらも、蘭子についていった。
この世にはいない人間が見えるだなんて、しかもそんな人と町を歩いているだなんて。
そんなこと信じられない。でも、これは現実だ。
空いている片方の手で頬をつねってみるも、痛かった。


裏口から拓真のレストランに入った蘭子と麗蘭は、閉店後のレストランへと入ってきた。
「あれ?何か物音がする」
「まじっすか?よし」
「強盗め!覚悟しろ…おおおおおおーっ!!」
大知の叫び声に驚いたのか、健が裏口に飛んできた。
「どうしたんだよ…えええ、やべえ!」
「健、大知何やってん…」
拓真が蘭子と麗蘭を見て言った。

「ウソだろ?蘭ちゃん?」

拓真は麗蘭の事よりも先に、蘭子の名を呼んだ。
「蘭ちゃん…会いたかった」
拓真は、蘭子をきつく抱きしめた。
その様子を目の前で見てしまった麗蘭は、ショックで立ち尽くしていた。
「もうどこにも行くな」
蘭子をきつく抱きしめたまま、拓真はそう呟いた。
麗蘭は耐え切れずに、逃げようとしたが、健につかまった。
「姐御、いつまで逃げてるつもりっすか」
強く言い放った健に、麗蘭は目を見張った。
「あ、麗蘭…これはその」
拓真が目を泳がせた。
「わかって、ます」
麗蘭は小さな声で呟いた。とても弱弱しい声だった。

蘭子と麗蘭は、厨房へとやってきた。
「懐かしい」
「だろ?」
目を細める蘭子に、拓真は微笑んだ。
そんな二人を見て、こんなに幸せそうな拓真を見たのは初めてだ、と麗蘭は思った。
「たっくん、信じられないと思うけど、わたしね、こっちの世界に戻ってきたの」
「蘭ちゃん…」
「だから、もう一回、わたしと付き合ってください」

(え?どういうこと?期間限定とか言ったのは嘘?)

「蘭ちゃん」
「わかってる。麗蘭ちゃんがいるってことくらい。でも、わたし忘れられなくて。たっくんのこと」
「僕もだよ。蘭ちゃんのこと、ずっと忘れられなかった。もう離さない」
そう言って、拓真は麗蘭の目の前で蘭子を再び抱き締めた。
麗蘭は、目の前が真っ暗になるような絶望感を味わった。
麗蘭は静かに、その場を去った。

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