愛は貫くためにある
麗蘭は、ショックを引きずったままカフェ・テリーヌへ戻ってきた。
カフェ・テリーヌは既に閉店時間になっており、完全に店仕舞いをして真っ暗になっていた。
麗蘭は裏口から中へと入った。
二階へ登ると、桃と春彦の部屋から灯りが漏れ、とても楽しそうな笑い声が聞こえた。
失意のどん底にいた麗蘭は、誰とも話す気力もなく部屋に閉じこもった。
麗蘭は泣いて泣いて泣いた。
涙が枯れるほど泣いた。

「どうしたの、麗蘭ちゃん!?」
美優が麗蘭が帰ってきたことに気付き、麗蘭の部屋に入ってきた。
しかし麗蘭が泣いていたので、美優は心配になって麗蘭に駆け寄った。
春彦と桃も心配そうに麗蘭に駆け寄った。
「何があったの?言ってみなさい」
「言ってみたら、意外とすっきりするもんだぞ」
麗蘭は頷いて、話そうとした。
しかし、話すことができなかった。

なぜなら、麗蘭は-

「……!」

離したくても、話せないからだ。

「麗蘭ちゃん、もしかして…声が出ないの!?」
美優が声を上げた。
「……」
麗蘭の声は、いつの間にか出なくなっていた。
麗蘭は、ベッドから立ち上がり机に会ったボールペンとメモ帳を持って何やら紙に書き始めた。

『わたし…声が出ない』

「麗蘭ちゃん…!!」
美優は泣きながら麗蘭を抱き締めた。
麗蘭の目には大粒の涙が溢れていた。


それからというもの、麗蘭はどこにも出かけず引きこもる毎日を続けていた。
しかし、カフェ・テリーヌに大知と健がやってきた。
麗蘭に会いに来たのだ。
「姐御!良かった元気そうで」
大知がにこにこして言った。
「さみしかったっすよ、姐御!若も待ってますよ」
健が、麗蘭に向かってそう言った。
「あれから、若が何度電話しても出ないって心配してたんすよ」
健が腕組みをして言った.
「これから若のところに行きましょう、姐御!」
大知はのんきにそう言った。

(あんなところ見せつけられたら、誰だって距離を置くに決まってる。
それに、わたしすごく傷ついた。やっぱり、蘭子さんには勝てないんだなって実感した。
拓真はやっぱり、蘭子さんが好きなんだ)


麗蘭は泣きそうになった。
「姐御、行きますよ?」
「……」
「姐御?」
大知の言葉にも健の言葉には全く反応しなかった麗蘭を見て、不思議に思ったのだろう。
二人は麗蘭に駆け寄った。
「どうしたんすか、姐御」
大知が麗蘭の顔色を窺った。
「……」
麗蘭は口をぱくぱくと動かすだけで、声は一切出ていない。
「姐御、いい加減にして下さいよ。なにやってんすか」
健が溜息をついた。
麗蘭は頭を鈍器で殴られたかのような衝撃を受けた。
麗蘭は口を引き結んだ。




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