愛は貫くためにある

拓真は、麗蘭を連れてレストランへとやってきた。
「あっ、姐御…！」
健が麗蘭に駆け寄る前に、大知が泣きながら麗蘭に擦り寄ってきた。
「あああねごおおおお〜〜！」
麗蘭は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに笑みを零した。

『大知さん』

麗蘭は口を動かした。
声は、出ていない。

拓真は、麗蘭のところへ通ううちにだんだんと麗蘭が何を言いたいのかわかるようになってきた。口の動きだけで何を話しているのかも、わかるようになってきたのだ。
「これからは、麗蘭と…過ごすようにするから」
拓真がそう言った。
「過ごすって、もしかして…」
大知がごくりと唾を飲んだ。
「同棲ってことっすか？」
健がそう言った。
「ああ、そういうことになるな」
「姐御は、OKしたんすよね？」
「してない」
「え？」
大知は目をぱちくりさせていた。
「えっ、じゃあ許可もらってないんすか」
「もらってないが、拒否権もない」
「かっこいいこと言うっすね、若」
大知が目を輝かせて言った。
「麗蘭、どうしても嫌なら言ってくれ」
麗蘭は首を横に振った。

「たっくん」
「あ、蘭ちゃん…」
蘭子が突然、二階から降りてきた。
「あら、いらっしゃい」
麗蘭は怯んだ。
「ごめんな、麗蘭。どうしても一緒にいたいって蘭ちゃんが言うもんだから」
拓真は俯いた。
麗蘭は、拓真の服の袖を引っ張った。
「麗蘭？」
拓真は、麗蘭を見た。

『いいんです。わたし、ただの居候だし気にしていませんから』


拓真は、麗蘭の言葉に切なさを覚えたが麗蘭に再び笑顔が戻るまで、泣かないと決めた。
泣きそうになるのは、麗蘭があまりにも頑なに自分との距離を取ろうとするからだ。こんなに近くにいても、天と地の距離ほど離れている気がする。
それほどまでに麗蘭の心を傷つけてしまったのだと、後悔してもしきれない。
拓真は、蘭子と店を切り盛りしていた。蘭子は料理が得意で家庭的な女性だった。蘭子の作る料理は、拓真に負けず劣らず絶品でとても人気があった。
店が繁盛しているのは良いことなのだが、蘭子と店を切り盛りしているという状況は、麗蘭にとっては耐えられないものだった。

麗蘭はいつも、拓真の部屋でぼーっとしている。麗蘭はいつものように何をすることも無く、ただ呆然と座っていた。
「麗蘭！」
拓真が仕事が終わって部屋に戻ってきた。
「食べよ」
麗蘭を夜ご飯へと誘い、拓真は一回へと降りた。
「たっくん、できたよ。はい」
「ありがとう、蘭ちゃん」
二人の仲睦まじい様子を見ていると、麗蘭は泣きたくなってくる。
二人で店を切り盛りしているから、夫婦に見えるらしくちやほやされていたことは、麗蘭はよくわかっていた。
お似合いの二人、ということもわかる。やっぱりわたしがいることで、拓真の邪魔をしているのではないかと、麗蘭の心は冷え込むばかりだった。