愛は貫くためにある

「麗蘭」
拓真は、麗蘭の手を握った。
「麗蘭もさ、作ってみないか？蘭ちゃんみたいに、新メニューをさ」
拓真は麗蘭を見て言った。
麗蘭は首を横に振った。
麗蘭の全身から、嫌だというオーラが滲み出ている。
「そうか…わかった。ごめんな」
「……」
麗蘭は走り去った。

(どうしたら、麗蘭を笑顔にできるだろう)

拓真は、頭を痛めていた。

そんなある日、蘭子は麗蘭を引っ張って買い出しへ言った。
「麗蘭ちゃん、あまりたっくんを困らせないでね」
「…？」
麗蘭は首を傾げた。
「たっくんは優しいから、あんなふうにしてくれるけど、たっくんは悩んでるのよ。あなたがなかなか、笑ってくれないし」
「…」
「迷惑になってるってわからない？」
「！」
麗蘭は履いていたスカートをぎゅっと握った。
「悪く思わないでね。わたし…たっくんのこと好きだから。あなたに負ける気は無いから」
蘭子はすたすたとスーパーへと歩いていった。麗蘭は、その場に立ち尽くしたままだった。



「あ、おかえり。蘭ちゃん、麗蘭」
拓真が嬉しそうに蘭子と麗蘭に駆け寄った。
「たっくん、ただいま〜」
「……」
麗蘭は俯いたまま、部屋にこもってしまった。
「わたし、今日肉じゃが作るね！」
「ありがとう、蘭ちゃん」
蘭子は上機嫌で厨房に向かった。
「麗蘭…」
麗蘭は元気がなさそうに見えた。
今までも元気はなかったのだが、
今日は特に元気がない。

「おいしいな、蘭ちゃんの作ったご飯は」
拓真が思わず本音を漏らした。
麗蘭は、黙々と蘭子の作った肉じゃがを食べていた。
「麗蘭ちゃん、どう？おいしい？」
麗蘭は力なく頷いた。
「麗蘭、あの…」
拓真がそう言った時、麗蘭はすでにご飯を食べ終わり席を立った。
「麗蘭、待てよ」
拓真は麗蘭の手首をがっしりと掴んだ。
「……」
麗蘭は俯いたまま、立ち止まった。
「麗蘭、麗蘭も蘭ちゃんみたいに作って欲しいんだ。新メニューを」
麗蘭は拒否した。
「お願い、店に出さなくてもいいから僕のためにだけに作ってくれないか」
麗蘭は黙って拓真の手を離し、二階へと駆け上がっていった。

「若…姐御の心の傷は、相当深いっすよ」
大知が言った。
「ああ、それは僕が一番よく理解してる」
拓真はため息をついた。
「姐御…たまに部屋から外を見て羨ましそうに見てました。楽しそうに話すカップルを」
「健…」
拓真は、麗蘭の心の傷はそんなに簡単には癒せないと、そう確信したのだった。拓真は、麗蘭とともに少しずつ進んでいきたかった。しかし、それは難しいことなのかもしれない。そう思った。