愛は貫くためにある
「麗蘭、お願いだから何か食べてくれ」

拓真の悲痛な叫びは、果たして麗蘭には届いているのだろうか。
麗蘭は食欲がなく、この三日間飲まず食わずの状態だった。
麗蘭の頬は痩せこけて、誰もが心配するほど青白い顔をしていた。

『た、べ、る』

麗蘭が口を動かした。

「食べる?よし、何にする?」

拓真は腕まくりをした。

『お、か、ゆ』

「おかゆ…?」

拓真は麗蘭を見て目を丸くした。
麗蘭は頷いた。
ぎゅるる、と麗蘭のお腹が音を立てた。

「わかった」


拓真はそう言って厨房へと入り、粥を作った。スーパーであらかしめ買っておいた玉子がゆの袋を、拓真は熱湯の入った鍋に入れた。
キッチンタイマーを五分にセットし、スタートボタンを押す。
ピッという音とともに、タイマーがカウントダウンを始める。

(ここ三日間、飲まず食わずだなんて…体は大丈夫なんだろうか。それに、お粥しか食べれないなんて、余程…)

"弱っている"

そう、拓真は思った。




ピピピピ ピピピピ ピピピピ



キッチンタイマーの鳴る音で、はっと我に返った拓真は、なべから玉子がゆの袋を取り出した。

(早いな…もう五分経ったのか)

拓真はまだ熱い袋の上部分をはさみで切って、中身を深めの皿に流し込んだ。


拓真は、テーブルに玉子がゆを静かに置いた。麗蘭は拓真を見上げたが、すぐに玉子がゆへと視線を落とした。
「作ったよ。食べて」
拓真がそう言っても、麗蘭は食べようともしない。
拓真は向かいに座って麗蘭を見つめていたが、麗蘭が全く動こうとしないのを見て立ち上がった。

椅子をギギギと引っ張りながら、拓真は麗蘭の隣へと椅子を移動し、その椅子に腰を下ろした。
「食べて」
食べようとしない麗蘭の手は、膝の上に置かれたままだった。
拓真は麗蘭の左手を握って机の上に置き、スプーンを握らせた。
それでも麗蘭は、食べようとしない。

(仕方ないな…こうなったら最終手段だ)

拓真は粥をスプーンで掬って口に含み、俯いている麗蘭の顎をぐいっと片手で持ち上げ、麗蘭の口を開かせた。
驚いて少しだけ口を開いた麗蘭に、自分が口に含んでいた粥を拓真は流し込んだ。

『…!』

麗蘭は目を丸くして、抵抗しようとしたが、あまりに突然のことでどうしていいのかわからなかった。
流れ込む粥と拓真の火照った唇の感触とで、麗蘭の頭はくらくらした。




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