愛は貫くためにある
シンデレラは、眠り姫なんかじゃない。早く、目を覚ましてくれ。
キユウから失踪した十五年間、君は一体どうやって過ごしていたのかくらい、
教えてくれてもいいじゃないか。僕はベッドで安らかに眠る君の前髪を撫でる。
「どうして、僕を庇った?僕のことを、あんなに避けていたのに…」
僕は目を閉じ、君と再会した時のことを思い出していた。

僕はキユウを出ていった君が忘れられずに過ごしていた。
そんなある日、僕に養子の話が出た。
ちょうどこんな窮屈なところから逃げ出したいと思っていたから、
これはチャンスだと思った。養子に入り平田守となった僕は、
ファッションプロデューサーとなり、ファッションショーも手掛けることになった。
でも僕は、君を忘れることなんてなかったよ。君が失踪して十五年が経った今、ようやく見つけたんだよ。喫茶店で掃除する、君を。
それから何度か清掃をする君を見守っていた僕は、すぐに異変に気付いたんだ。
君は不良に絡まれて虐げられていた。清掃の最中に煙草屋ごみを散らかす不良に対して、
君は文句も言わず、清掃を続ける。それだけじゃない。わざとぶつかられて転倒し、
買い物袋の中身を落として拾おうとする君を嘲笑うかのように、
袋の中にあった食品を踏みつけて、使い物にならないようにされたことも、あったね。
それでも君は、「やめて」の一言すら口にしない。僕は見ていられなかったんだ。
これ以上、傷ついてほしくなかったから。
だから僕は、君が危険にさらされた時に君を守った。
いつも君を守る僕のことを、君は知りたがっていたね。
でも僕は、君に名前を名乗らなかった。
名乗ってしまえば、たちまち君は僕の前から姿を消してしまうんじゃないかと、
怖くて仕方がなかったんだ。嫌われてしまうのなら、いっそのこと名を明かさずに
君を陰ながら守ヒーローとして距離を詰める方がいい、と思ったんだ。
でも、不思議だね。君に会えば会うほど、欲が出てしまうんだよ。
僕の正体を明かして長年の片想いを成就させたいという、欲が。

僕は、我慢できなくなってしまった。

だから、僕は君に恋文と指輪を渡したんだ。
戸田夫妻が見守る中、この喫茶テリーヌの店内で。
手紙の最後には、僕の名前が記してある。
僕の名前を見た途端、君は恋文と指輪を放り投げて、走り去ってしまった。
感情的になるとわかってはいたが、ショックは意外に大きかった。
それから君は、僕を避けるようになった。不良の嫌がらせから君を守っても、
君の態度は冷たくて。当然の報いなんだ、これは。僕が昔君にしたことは、
許されることじゃないと、わかってはいるんだ。でも僕は、君を守ることに徹した。
どんな時も、必ず守ってみせると。その結果、君はー
僕を傷つけまいと、自分から悪と戦おうとした。
そんな君を庇おうとしても、既に遅かった。
君は僕の目の前で、崩れ落ちた。僕の目の前で、深く傷ついた。
僕の腕に倒れ込んだ君が最初に言ったことばはン、僕に怪我がないかということだった。
自分のことよりも僕のことを心配する君。
そんな優しい君だから、僕は好きになったんだよ。
君が僕のことを王子様だと言ってくれた時、嬉しくて涙が更に零れ落ちた。
僕を庇って背中と右手を刺された君は、意識を失った。
静かに目を開けても、君はまだ起きない。
君を刺したあの男は、絶対に許さない。
君はずっと、あの金髪のストーカーに悩まされてきたんだね。
でももう、心配ないよ。僕が、守るから。
僕は君の温かな手をぎゅっと握りしめた。

もう二度と離さないという誓いを込めて。

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