愛は貫くためにある
麗蘭が姿を消してから一か月が経とうとしていた。
拓真は、営業時間が終了するとすぐに外に出て麗蘭を探した。
宛てもなくふらふらと捜し歩いているうちに麗蘭に会えるのではないかという淡い期待は、
毎回毎回見事に裏切られる。麗蘭は今日も見つからなかった。
レストランに帰った拓真は、裏口の玄関に座り込んだ。

「あっ、若。おかえりなさい」

大知が拓真に駆け寄った。
ああ、と短い返事をして拓真は黙り込んだ。
「その様子だと…今日もだめだったんすね」
健が拓真に駆け寄り、拓真の顔を覗き込んだ。
「ああ、空振りだ」
拓真の声には元気がなく、がっくりと肩を落としていた。
拓真のがっしりとした大きな背中が、とても寂しそうに見えた。

「麗蘭はきっと…帰ってくる」

拓真はしばらく、玄関に座り込んだままだった。





「若!若!大変っす!」
大知が電話越しに大声で言うから、拓真は少しだけ携帯を耳から離した。
「あのな、もう少し声を抑えて言え。声が大きい」
「はい、わかりました」
大知はわざと小さな声で言った。
「…大知、あとで覚えとけよ」
「ひ、ひええええ!わ、若、すみません…!お許しを…!」
「いや、許さん」
拓真は咳ばらいをした。
「麗蘭姉さん、見つけました」
「えっ、本当か!?」
拓真は息を呑んだ。
「でも…」
大知の声が淀んだ。
「若。とにかく、こっちへ来てください。そうすれば…わかります」
「わかった。今どこにいる?」
拓真は大知のいる場所を聞きだし、すぐに足を走らせた。


「大知…」
息を切らしながら、拓真が大知へ駆け寄った。
「ここは…」
「若。落ち着いて聞いてください」
大知が一呼吸置いて言った。
「麗蘭姉さんは…ここにいますよ」
「うそ、だろ…?」
拓真は、震える手で『天野麗蘭』という文字に触れた。
石に刻まれたその文字を、拓真は何度も見た。
「麗蘭姉さんは…」
「言うな!」
拓真は大知の言葉を遮り、大声で叫んだ。
大知は口をつぐんだ。

拓真と大知の目の前には、大きな石材があった。
その石材には大きな字で天野家と書かれており、天野麗子という文字の隣に
長女 天野麗蘭 と書かれていた。
そう、麗蘭と書かれた石材は墓石だったのだ。
「うそだ。麗蘭は生きている」
「若…」
大知は地面へと目を逸らした。
「星になったんすよ、麗蘭姉さんは。あのとき夜空に光っていた、あの白い星」
「信じない。麗蘭は生きてる」
拓真は麗蘭の二文字を撫でながら言った。
「なあ、そうだろう?麗蘭。嘘だと言ってくれよ」
拓真はずっと泣きじゃくっていた。

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