愛は貫くためにある
「若、そろそろ帰らないと。冷えてきましたよ」
大知が健を呼んだ。
健が、麗蘭の墓から一向に離れようとしない拓真を立たせた。
「若。さすがにもう行かないと…明日の営業に障ります」
そう言って拓真の手を引っ張って歩かせようとするが、拓真は頑として麗蘭から離れようとしない。
「やだ。麗蘭から離れない。僕はここにいる」
「若。そんなこと言っていたら、麗蘭姉さんが悲しみますよ?」
「健、それってどういう…」
「若がこんなんだって知ったら、姉さんどう思います?若がしっかりしないと、姉さんに嫌われますよ」
「う、それは…」
拓真は麗蘭の二文字を見つめた。
「若!終わったら毎日ここに会いに来たらいいじゃないっすか」
大知が拓真の背中をぽんと押した。
「麗蘭…また会いに来るからな。明日!明日来るからな。待ってろよ、麗蘭…!」
健に引きずられながら歩いている拓真は、何度も麗蘭の方を振り返った。

「待ってろよ、麗蘭」

拓真は、その言葉を何度も叫んだ。
大知は麗蘭の方を向き、深く頭を下げて去っていった。


それからまもなく、ざわざわと風の音が響き渡った。
風がやむと、二人の女性が姿を現した。
その二人は麗蘭の母親の麗子と、麗蘭だった。
「本当にいいの?これで」
「うん、お母さん。いいの、これで。拓真さんには蘭子さんがいる。
すぐにわたしのことなんて、忘れてしまう」
「麗蘭…あなたって子は…」
麗子は麗蘭を優しく抱きしめた。
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