愛は貫くためにある
「麗蘭、僕は麗蘭が心配で」
『うそ。わたしのことなんか、煩わしいと思ってるくせに。わたしは何かと世話がかかるから、わたしのことなんてどうでもいいんでしょう?』
「何を言ってる!僕は麗蘭のことが心配なんだぞ!?」
拓真は麗蘭をベッドに強く押さえつけた。
『い、たい』
顔を歪める麗蘭を見て、はっとした拓真は麗蘭の頬に触れた。
「ごめん。痛かったな」
拓真は麗蘭から身を離した。
「ちょっと…頭冷やしてくるよ」
拓真は部屋のドアを開け、出ていった。

拓真は夜風に当たっていた。
「どうして僕は、知らず知らずのうちに麗蘭を傷つけてしまうんだろう」
そう拓真が呟くと、後ろから声が聞こえた。

「麗蘭ちゃんは、とても心根の優しい子だから傷ついちゃうのよ」

「えっ、蘭ちゃん…?」

その声に振り向くと、蘭子が立っていた。蘭子は、本来の居場所である冥界へと戻っていた。

「もう、喧嘩したの?」

蘭子が呆れたように言った。

「うん、喧嘩した。麗蘭を傷つけてしまった」
「麗蘭ちゃんは、手が動かせなくなっただけでもすごくショックだったのよ。でも、たっくんに触れたかった。それなのに、無理するなとか今の麗蘭ちゃんには無理だとか言われたら傷つくに決まってるでしょ?」
「それはそうかもしれないけど」
「たっくんが心配だっていうのはわかるけど、麗蘭ちゃんの辛い気持ちもわかってあげて」
そうだな、と拓真は頷いた。
「麗蘭ちゃん、すごく悲しい顔してた。麗蘭ちゃんにはまだ早い、って言ったのも傷ついたんじゃないかな」
蘭子は、星が輝く夜空を見て言った。
「麗蘭ちゃんはたっくんより年下だし、そういうふうに思うのもわかるけど、麗蘭ちゃんは子供扱いされたくなかったかも。一人の大人の女性として見て欲しいんじゃないかな。そりゃあ、まだ早いって思う気持ちもわかるよ。昔会った麗蘭ちゃんのイメージがそのまんまなんでしょ?」
「うん、麗蘭は昔と変わってない。麗蘭の為を思って言ったことが、麗蘭を傷つけてたんだな」
拓真はため息をついた。
蘭子がぴしっと拓真の背中を叩いた。
「早く帰って、麗蘭ちゃんを可愛がってあげてよ?心細いんだからね、麗蘭ちゃんは。寂しがり屋なのは、たっくんがよく知ってるでしょ?」
「蘭ちゃん、ありがとう。じゃあな」
「うん、またね」

走り去る拓真を、蘭子は笑顔で見送った。
「やれやれ。恋のキューピッド役も、大変ねえ」
蘭子はそう言って、いつしか風とともに去っていった。

拓真は、麗蘭の待つ自分の部屋へと向かった。ドアを開けて静かに入ると、麗蘭は窓の近くで、ぼんやりと外を見ていた。拓真は、麗蘭を後ろからそっと抱きしめた。

「麗蘭、ただいま」

麗蘭からは相変わらず返事はなかった。

「ねえ、麗蘭。こっち向いてよ」

拓真がそう言っても、麗蘭は拓真の方を振り向きもせずに黙って窓の外を見ていた。

拓真は麗蘭の向きをくるっと変えて、
麗蘭と向かい合った。

「麗蘭、ごめん。さっきは言いすぎた。麗蘭の辛い気持ちもわかろうとせずに…僕は…」

拓真は麗蘭を抱きしめた。
しかし麗蘭は、悲しみの表情だった。
麗蘭は、抱きしめる拓真から離れようともがくが、拓真は麗蘭を離さなかった。麗蘭は仕方なく、拓真の腕から離れることを諦めた。

「麗蘭」

拓真が腕を緩めて麗蘭を見つめた。
麗蘭は、拓真が腕を緩めた隙に拓真の腕から逃げ出した。

「れ、麗蘭…!」

麗蘭は再びベッドに潜り込んだ。



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