愛は貫くためにある
麗蘭は次第に拓真から距離を置くようになった。拓真に触れられても拒絶を示す。拓真は、頭を痛めていた。

「麗蘭……あのさ」

拓真がそう話しかけると、麗蘭はベッドに潜り込み、だんまりを貫き通す。
拓真は溜息をついた。

「麗蘭……そのままでいいから聞いてくれ」

拓真は、思いの丈を話し始めた。

「僕は、麗蘭のことが心配で言ったんだ。でも、麗蘭にとっては酷いことだったのかもしれないな。確かに、麗蘭の手は動かない。だからといって、今の麗蘭には無理だ、なんて酷いことを言ってしまった。本当にごめん」

麗蘭は身動きせずにベッドの中にいた。

「壁ドンのことも……まだ早いって言ったけど、訂正させて。早くなんかないよな。麗蘭はれっきとした大人なんだから、遅いくらいだよな」

拓真は、ベッドの中の麗蘭に近づき、跪いた。

「麗蘭、僕はね、昔の麗蘭のイメージが強くて…まだ子供だって錯覚してしまうところがあったんだ。でも、わかったよ。子供扱いなんてしない。麗蘭を一人の女性として…」

その時、もぞもぞと麗蘭が動き出した。麗蘭は静かに起き上がった。

「麗蘭」

拓真が麗蘭を抱きしめようとすると、麗蘭は口を動かした。

『いやです、触れないで』

「麗蘭?なに言ってるんだよ」

『わたしには、まだ早いんでしょう?
キスもハグも壁ドンも』

拓真は目を見開いて、すぐに麗蘭をぎゅっと抱きしめた。
「違うよ、麗蘭。そんなんじゃない」
麗蘭は身をよじって拓真から離れようとする。かろうじて少しだけ動く麗蘭の右手が、拓真を拒絶した。
「麗蘭……」
『わたしには早いんです、全部。キスもハグも……だからわたし、拓真さんには触れません。拓真さんもわたしに触れないでください』
何言ってるんだよ、と拓真は麗蘭の頬を両手で包むが、麗蘭は目を背けて抵抗する。これじゃ埒が明かない、と拓真は麗蘭から身を離した。


麗蘭は宣言した通り、拓真には触れなかった。拓真は、麗蘭に触れないで欲しいと言われてからというもの、なんとなく調子が出ない。拓真は悩みに悩んでいた。
そんなある日のこと、拓真は常連客の美香子という女性と楽しげに話していた。美香子は拓真が昔やんちゃをしていた時からの友人だった。
拓真は麗蘭のことを話し始めた。
「ふーん、その子、甘えなくなったんだ」
「ああ。僕が傷つけてしまったから、自業自得だ」
「そんなことないわよ、拓真は悪くない」
「ありがとう、美香子」
拓真はほっとした。
昔の友人と話していると、心が和む感覚になる。麗蘭とうまくいっていないこの状況に溜息をつきそうになるが、美香子と話しているとほっとするな、と拓真は思った。
「声が出ないんだ。手も動かないって」
「うん、そうなんだ。僕も最初は信じられなかったけど、本当なんだよ」
「ふーん」
美香子は、口角を上げた。
「あの子?彼女って」
美香子と拓真が談笑しているのを目撃してしまった麗蘭は、その場に固まった。
「ふーん、まあ…ブスではないけど美人でもないわね」
「おい!なんてこと言うんだよ」
拓真は麗蘭と美香子を見ておろおろとしていた。
「だって、美人には程遠いじゃない」

「よく見ろよ。可愛いだろ?」
「えー?どこがよ」
「美佳子!あのな…!」
麗蘭は俯いて走っていった。
「れ、麗蘭ちょっとまっ…」
拓真が麗蘭を追いかけようとするも、麗蘭の姿はそこにはなかった。
「行っちゃったわね」
美香子は勝ち誇ったように笑った。







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