愛は貫くためにある
「あなたね?拓真の彼女ってのは」
麗蘭は美香子に怯えた。
「私は美香子。拓真とは昔からの友人。そして拓真に長い片想い」
麗蘭は驚いて目を丸くした。
美香子は茶色の胸まである長い髪をなびかせた。化粧も完璧で、愛嬌も女としての色気も十分すぎるほどだった。
「あなた、話せないんですってね。しかも、手も動かない」
『!』
「拓真はよくやってるわよ。どれだけあなたのことを考えて尽くしてるか」
あなたは何もわかってない、と美香子は言った。
「あなたのためになんでもしてやってんのに!拓真を傷つけて苦しめるのやめてくんない?拓真のあんなつらそうな顔、私見たくないんだけど」
美香子はポケットから煙草を取り出し、ライターの火に煙草を近づけた。
「話せないくせに、手も動かないくせに、よくもあんたに尽くす拓真を苦しめるわね?いい加減にしなさいよ!
どれだけ拓真の迷惑になってると思ってんのよ!ただでさえ話せなくて手も動かせなくて。拓真の隣にいる資格なんてないのよ!」
美香子はくわえた煙草を片手に持ち、煙を口から吐いた。
『……』
「は、なに?何を言いたいわけ?わかんないし。よくわかるわよね、こんな口をぱくぱくさせてるやつの言いたいことなんてさ。拓真も拓真よ。こいつのどこがいいのよ」
そう言って夜の街へ去っていく美香子を、麗蘭は泣きながら見送った。


「あっ、姐御!遅かったじゃないっすか!…って、どうしたんすか…」
大知が勢いよく麗蘭に駆け寄ったが、麗蘭が泣いてきたのだとわかり、麗蘭の顔を覗きこんだ。
「なんでもない、って…なんでもあるじゃないっすか」
健も心配そうに麗蘭を見つめた。
『健さん、大知さん、拓真さんにはわたしが泣いてたこと言わないで』
いや、でも、と大知は口ごもった。
「大知。姐御は若に心配かけたくないから…」
「姐御!俺らにだけは教えてください。何があったのか」
麗蘭は天井を見上げて深呼吸をした。
『美香子さんに会ったの』
「えっ、美香子さんって……」
大知が肩をぴくりと揺らした。
「うわー、めんどくさ…美香子さんって超絶めんどいんすよ」
『めんどいってどういうこと?』
麗蘭は、健の言っている意味が全くわからず、真意を尋ねた。
「美香子さんは若の昔からの友人なんすけど、気が強いのなんのって」
「大知の言う通りで、美香子さんはしつこいんすよ…。嫉妬深いし、しつこくて。若に振られても何度もくっついてきて、若を狙う」
健が呆れたように言った。
「美香子さんに目をつけられちゃ、大変だ…」
大知は頭を抱えていた。
「美香子さん、集中攻撃してきますよ、姐御に」
『健さん、わたしもう、攻撃されてます』

麗蘭がそう語るから、健と大知は驚いて顔を見合わせた。

「えっ?どういうことっすか?」
大知は身を乗り出して麗蘭に尋ねた。


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