愛は貫くためにある

昼下がりのカフェ・テリーヌで、大知は先程からずっとそわそわしている。

今日は定休日。


「大知、落ち着け」

そう拓真が言っても大知が落ち着く気配はなく、むしろ辺りを右往左往している。

「大知、うろうろするな。視界にちらちらと入って、気になって仕方ない」
拓真はいらいらしながら大知に言った。
「い、いや…そうはいっても、落ち着かないんすよ…」
大知の右往左往は止まらない。
大知が落ち着いていられないのは、大切な約束をしているからだ。
「健、俺の髪型変じゃない？ちゃんとキマってる？」
「その質問100回目。大丈夫だ、っつてんだろ。いい加減自信持てよ…ったく、心配性だな」
深く溜息をつく健の横で、そんなに言ったか？と、頭を掻きながら大知は笑った。
『どんな子か楽しみね』
麗蘭はわくわくしていた。
「姐御、大知の鼻の下がこーんなに長くなるくらいですもん。美人っすよ、美人」
健はわざとらしく、両手を縦に大きく伸ばしながら言った。
「や、やめろよ！そ、そんなんじゃないって」
「くっ、図星」
健が肩を揺らして笑い出した。
拓真も笑いを堪えきれずに声を上げて笑った。
「桃さん、ハルさん、今の聞きました？まじであの二人ひどいっすよ！」
大知はカウンター席から突然立ち上がり、大知の後ろにいる拓真と健を指さして言った。大知の左手はカウンターの上にあり、後ろを振り向きながら笑いが止まらない二人を右手で指さしていた。

大知は、カフェ・テリーヌを経営している戸田夫妻を理想の夫婦像だと尊敬していて、桃のことを桃さん、春彦のことをハルさんと呼んでいる。
「まあまあ、許してあげて。大知くん」
「ええ〜！桃さんまで〜！」
「大知くん、おふざけはそこまで。もうすぐ、例の彼女が来るんだろ？」
春彦の言葉で、大知は我に返った。
「そうだった！いっけねえ、本分を忘れるとこだったぜ…」
「ぶはっ」
拓真が思わず吹き出した。
「…若」
大知はカウンター席から離れ、拓真に近づいた。
「ひどくないっすか！？なんで笑うんすか！さっきから若、ずっと俺見て笑ってばっかじゃないっすか。ぶはっ、ってなんすか。ぶはっ、って…！？」
肩を揺らして笑う拓真に詰め寄る大知だが、拓真の頬の緩みは留まるところを知らない。