愛は貫くためにある
「そして、あなたのことも楽しげに話されていました。あなたのことも、ね」
川橋は震える拳をぎゅっと握りしめていた。
「婚約者の目の前で、楽しそうに他の男の話をするだなんて…お嬢様は無意識なのでしょうが、こちらとしては非常にやるせない」
川橋は唇を噛んだ。
(は…?今なんて言った?婚約者の目の前で、って…?)
「あの、あなたは一体何者なんですか」
大知が尋ねると、川橋はふっ、と笑った。
「僕は麗奈お嬢様の婚約者です。アパレルショップの店長をしております。崎本グループの、ね」
「麗奈ちゃんの…婚約者…」
(例の、婚約者か…それが、こいつ…)
大知は川橋を頭からつま先までじっと見た。スタイリッシュな格好をしたイケメン。アパレルショップの店長とだけあって、洒落た服を着回しているようだ。
「僕をそんなに、舐めずり回すような目で見ないでいただけます?お嬢様にならまだしも、あなたのような男に興味はありません」
(くっ…こっちが黙っているのをいいことに、調子に乗ってずけずけ言いやがって……。こんな奴に、麗奈ちゃんを渡せるわけない)
「そんな目で見てませんけど」
大知が溜息をつくと、
「お嬢様のお気に入りがこんな男か」
と、川橋は呟いた。
「こんな男で、悪かったっすね」
「お嬢様は真面目で律儀で賢い方がタイプなようですので、もっとマシな方かと身構えましたが、その必要はなかったようですね。無駄な体力を消耗してしまいましたよ。まあ、お嬢様が自他共に認める面食いだということは理解しているつもりではいましたが」
「何をおっしゃりたいんですか、一体」
「お嬢様が惹かれるのは、高スペックで賢く美男子、しかも真面目で優しい男だとそう思っていたのですが…どうやらそれだけではお嬢様の心を捕らえることはできないようだ」
「それで?」
大知はイラついていた。
何故そのことを自分なんかに言うのかと思いながら、大知は川橋に背を向け、他の花にじょうろで水をかけ始めた。
「なかなか一筋縄ではいかない…だからこそ燃える。絶対にお嬢様の心を僕のものにする」
大知は立ち上がり、その場を去ろうとした。しかし、川橋はじょうろを持った大知の右手首を掴んだ。
「…なんすか?離してくださいよ」
川橋の手を振り払い、大知は川橋を睨んだ。
「大知さんのことは、いろいろと調べさせてもらいました」
川橋は悪びれるもなく、そう言い放った。
「そうっすか」
「綺麗な花には棘がある」
川橋が大知の正面に周り、大知の顔を覗き込むように言った。
「何を言いたいんすか?レストランの開店準備でこっちは忙しいんすけど」
「ほら、見てくださいよ。この薔薇」
川橋は、大知の後ろの方にある何輪もある薔薇の花を指さし、歩き出した。
まだ咲いていない、蕾の薔薇のところへ。
「薔薇には棘がある。綺麗な花にもね。もちろん…お嬢様にも」
「あるわけないだろ」
大知の独り言は、川橋にはしっかりと聞こえていた。
「ありますよ。お嬢様は僕だけのものだという、毒にも似た棘が」
毒にも似た棘、という言葉にやけに力がこもっているように感じるのは気のせいだろうか、と大知は身震いした。
「…宣戦布告ってことっすか」
不敵な笑みを浮かべる川橋に、大知は鳥肌が立った。
「ああ、そう思ってくれて構わない」
「なるほど?」
大知は挑発的な目で川橋を見た。
「お嬢様のことを、気安く麗奈ちゃんだなんて言わないでくださいよ。僕だけのお嬢様ですから」
川橋は庭を出て静かに去っていった。
「宣戦布告。僕はお嬢様を渡さない」
去り際にそう言った川橋の言葉が、大知の脳にこびりついて離れなかった。
川橋は震える拳をぎゅっと握りしめていた。
「婚約者の目の前で、楽しそうに他の男の話をするだなんて…お嬢様は無意識なのでしょうが、こちらとしては非常にやるせない」
川橋は唇を噛んだ。
(は…?今なんて言った?婚約者の目の前で、って…?)
「あの、あなたは一体何者なんですか」
大知が尋ねると、川橋はふっ、と笑った。
「僕は麗奈お嬢様の婚約者です。アパレルショップの店長をしております。崎本グループの、ね」
「麗奈ちゃんの…婚約者…」
(例の、婚約者か…それが、こいつ…)
大知は川橋を頭からつま先までじっと見た。スタイリッシュな格好をしたイケメン。アパレルショップの店長とだけあって、洒落た服を着回しているようだ。
「僕をそんなに、舐めずり回すような目で見ないでいただけます?お嬢様にならまだしも、あなたのような男に興味はありません」
(くっ…こっちが黙っているのをいいことに、調子に乗ってずけずけ言いやがって……。こんな奴に、麗奈ちゃんを渡せるわけない)
「そんな目で見てませんけど」
大知が溜息をつくと、
「お嬢様のお気に入りがこんな男か」
と、川橋は呟いた。
「こんな男で、悪かったっすね」
「お嬢様は真面目で律儀で賢い方がタイプなようですので、もっとマシな方かと身構えましたが、その必要はなかったようですね。無駄な体力を消耗してしまいましたよ。まあ、お嬢様が自他共に認める面食いだということは理解しているつもりではいましたが」
「何をおっしゃりたいんですか、一体」
「お嬢様が惹かれるのは、高スペックで賢く美男子、しかも真面目で優しい男だとそう思っていたのですが…どうやらそれだけではお嬢様の心を捕らえることはできないようだ」
「それで?」
大知はイラついていた。
何故そのことを自分なんかに言うのかと思いながら、大知は川橋に背を向け、他の花にじょうろで水をかけ始めた。
「なかなか一筋縄ではいかない…だからこそ燃える。絶対にお嬢様の心を僕のものにする」
大知は立ち上がり、その場を去ろうとした。しかし、川橋はじょうろを持った大知の右手首を掴んだ。
「…なんすか?離してくださいよ」
川橋の手を振り払い、大知は川橋を睨んだ。
「大知さんのことは、いろいろと調べさせてもらいました」
川橋は悪びれるもなく、そう言い放った。
「そうっすか」
「綺麗な花には棘がある」
川橋が大知の正面に周り、大知の顔を覗き込むように言った。
「何を言いたいんすか?レストランの開店準備でこっちは忙しいんすけど」
「ほら、見てくださいよ。この薔薇」
川橋は、大知の後ろの方にある何輪もある薔薇の花を指さし、歩き出した。
まだ咲いていない、蕾の薔薇のところへ。
「薔薇には棘がある。綺麗な花にもね。もちろん…お嬢様にも」
「あるわけないだろ」
大知の独り言は、川橋にはしっかりと聞こえていた。
「ありますよ。お嬢様は僕だけのものだという、毒にも似た棘が」
毒にも似た棘、という言葉にやけに力がこもっているように感じるのは気のせいだろうか、と大知は身震いした。
「…宣戦布告ってことっすか」
不敵な笑みを浮かべる川橋に、大知は鳥肌が立った。
「ああ、そう思ってくれて構わない」
「なるほど?」
大知は挑発的な目で川橋を見た。
「お嬢様のことを、気安く麗奈ちゃんだなんて言わないでくださいよ。僕だけのお嬢様ですから」
川橋は庭を出て静かに去っていった。
「宣戦布告。僕はお嬢様を渡さない」
去り際にそう言った川橋の言葉が、大知の脳にこびりついて離れなかった。