Toxic(※閲覧注意)
「さっそくですが、うちの春の価格設定は一応こんな感じになっていて……」

宇宙戦艦くん、もとい柴宮大和が、いくつかの資料を差し出して、軽く説明を始めた。

こんな数字、耳で聞いてもピンと来ないから、私は「はい」「ええ」となんとなくの相槌を打ちながら、目の前の柴宮をぼんやりと観察する。

年はおそらく30前くらい?とにかく、私よりかなり若そう。

やや色素の薄い褐色の瞳と、形のよい眉がとても印象的だ。

右目の下に、色っぽい泣きぼくろがある。

「……とまあ、口で説明してもあれなんで、料金表は後ほどメールでお送りしますね」

柴宮は軽めの口調でそう言って笑って、右の八重歯が覗いた。

「ええ、お願いします」

「ああそれから、これがうちの今年のパンフレットになります」

彼が差し出したパンフレットを手にして、パラパラとめくる。

「去年いただいたパンフとは内容違うんですか?」

「そうですね。実はこれが、わざわざご挨拶に伺った理由でして。ええっと……ちょっと失礼します」

柴宮大和は身を乗り出すと、私が手にしていたパンフレットを覗き込んで、ページをめくり始めた。

近くなった彼から、甘くて瑞々しい香りがした。

あれ?これ……なんの香りだろう。

私が鼻をくんくんさせながら少し首を傾げたら、

「ラ・フランスですよ」

何も尋ねていないのに、柴宮はそう答えた。

香りと同じくらい、甘い声だった。
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