Toxic(※閲覧注意)
「もう少し詳しく説明させていただきたいので、改めてお時間をいただいてもよろしいですか?」

「それは別に構いませんけど」

私が答えると、柴宮は「ありがとうございます」と少し低い声で言った。

「では、もしよろしければ、さっそく本日の夜にでも、うちのホテルにいらしてください」

「は?夜ですか?!しかも今日の!」

てっきり、別の日に改めてアポを取って、こちらにまた出向いてくれるものだと思っていたから、私はまた驚きの声を上げた。

少しだけ素の声が出てしまった。

なんでわざわざ、私が?! という本音は、かろうじて飲み込んだ。

「ええ。まずはぜひ、そのレストランの料理を堪能していただきたいと思いまして」

ああ、そういうこと。

まずは胃袋をがっちりつかんでから、話を有利に進めようってわけか。

おあいにくさま、残念ながら、私の舌はとてつもなく肥えてるの。

でも、いただけるものは、せっかくなのでいただきます。

「あ、ご予定がおありでしたら、勿論明日あさってでも結構ですので」

チッ、と思わず心の中で舌打ちする。

38才の独身女性が、平日の夜にそうそう予定などあるはずもない。

勿論そんな事情、相手が知るわけもないが。

「そうですね、では……本日お伺いします。7時半くらいでもよろしいですか?」

私がそう言うと、柴宮大和は「楽しみにお待ちしております」と目を細めて艶っぽく微笑んだ。
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