Toxic(※閲覧注意)
「元気で」
男は思いの外、すっきりした笑顔を見せた。
「うん、あなたもね」
そんな彼に、私も素直に笑みを返す。
つい今しがた離婚届を提出して、私と目の前の男は、赤の他人となった。
結婚生活はたった2年しか続かなかった。
でも、別に気にしていない。
私に『結婚』が向いていなかっただけ。
だって私、そういう星の下に生まれているもの。
獲物を探し求め、いつだって自由に野を駆け巡る。
射止めてしまった獲物は、いずれ腐りゆく。
私の気持ちみたいに。
何事も熱しやすく冷めやすい私は、恋愛も長続きした試しがない。
意中の人を全身全霊を持って射止めに行った結果、手にするのは満足感でも幸福感でもなく、何故かいつも、とんでもない不自由だ。
人生通算19人目の男であり、ついさっきまで私の夫だった目の前の彼が私にもたらしたものも、例外なくそれだった。
「じゃあ、さよなら」
「ええ、さよなら」
19回目の『さよなら』は、やっぱり大した感慨もなかった。
今回も、幸せになれなかったか。
別に「結婚=幸せ」だなんて思ってないけれど。
ただ、なんとも言えない空しさが、心にひんやりと冷たい風穴を空ける。
片桐(かたぎり)……あ、私、旧姓に戻ったんだっけ。
あーあ、片桐って名字、わりと気に入ってたのに。
夏目響子(なつめ きょうこ)、自由をこよなく愛する、射手座のO型。
たった今バツイチになったばかりの、38歳。