Toxic(※閲覧注意)
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「まあ、とりあえずお疲れさん」

向かいに座った化粧っ気のないショートカットの女性は、そう言ってジョッキを差し出した。

「はい、お疲れ。って、なにこれ、離婚祝い?」

私は自分のジョッキを合わせながら、苦笑いをする。

「祝ってどうすんのよ。なんだっけ、激励会?次は頑張れ、みたいなやつ」

「えー、次?……うーん、結婚はもういいかなあ」

私が言えば、目の前の市村円香(いちむら まどか)は、ビールを一口飲んで、それから呆れたようにため息をついた。

「なに余裕こいてるの、響子。38ってもうオバサンよ?」

「オバ……円香だってタメのくせに」

「あたしはオバサンでもいいのよ、旦那も子供もいるし。問題は、こんな年で独り身になった響子、あんただから」

円香は早口で言って、ジョッキを口に運び、ゴクゴクと音を立てながら、ビールを喉に流し込んで行く。

あっという間にジョッキが空になって、彼女はテーブルの上の呼び鈴を鳴らした。

4年前に結婚して、今では二児の母親である円香だが、若い頃から全く変わらぬ酒豪っぷりだ。

新卒で入った今の会社で、同期として出会った円香との付き合いは、もう15、6年になる。

最近は2人目の育児休暇でしばらく職場を離れていたが、先月末に復帰してきた。

「40目の前にして、出産はもちろん、結婚だってタイムリミット近いのよ?」

円香が言った。

「いや、もともとそんなに結婚願望ないし、子供がほしいってわけでもないし、別に今後結婚できなくても平気」

私が答えると、円香はふう、とまた呆れ顔で深いため息を漏らした。
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