Toxic(※閲覧注意)
見積りメールを終わらせて、新しく依頼された団体ツアーの行程に頭を悩ませていたら、

Prrrrr……

デスクの上の社用ケータイの着信音が鳴った。

定時を過ぎると、うちの電話は繋がらなくなるので、こちらにかかってくるのだ。

発信者は……ブリリアントホテル東京。

「はい」

通話ボタンを押して応じると、

『Hello. This is Shibamiya speaking.』

ヤツは何故か英語で名乗った。

しかも、発音がやけに流暢だ。

「なんで英語なのよ」

『いやあ、久しぶりに夏目さんと話すから緊張しちゃってー』

全く緊張感のない話し方で、彼は言った。

「……で? うちの島根が電話した件でしょ?部屋、押さえてくれました?」

『スタンダードツイン3部屋ですよね、2部屋ならいけるんですけど1部屋がどうしても。予約がいっぱいで』

「ちょっと。どうにかしてよ。どうしてもブリリアントがいいって言われてるんだから」

『あはは、これが噂の怖ーい夏目さんね』

柴宮が楽しそうに笑って言った。

『そうですね、スーペリアツインならギリギリ3部屋いけますが、お値段が上がっちゃうんでどうしようかなと』

「差額は一部屋1万ちょいでしたっけ?で、いくらでやってくれるの?」

『今回は差額は0でかまいませんよ』

「0?!スタンダードと同じ値段でいいってこと?本当に?」

オフシーズンならともかく、この繁忙期に全く同じ価格にしてくれるなんて、聞いたことがない。

『ええ、まあ条件がありますけど』

柴宮は少し笑いながら言った。
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