Toxic(※閲覧注意)
「そんなん言ったって、あんた……」

「お待たせしました、注文は?」

円香が何か言いかけた所で、大学生くらいの若い女の子の店員が、テーブルにやってきた。

「注文は?」じゃなくて「ご注文は?」でしょ?

ついそんな風に心の中でツッコんでしまうのは、オバサンになった証拠なのだろうか。

「生くださーい。それから、シーザーサラダとだし巻き玉子、たこの唐揚げと……」

円香が料理を注文すると、その店員は「わかりました」と答えた。

そんな返事ある?

店員の口の聞き方くらい、ちゃんと教育してほしいものだ。

……って、ああやだやだ、またオバサンみたいなこと考えちゃった。

「結婚したくないならそれでいいわよ。でもね、恋愛はしたいでしょ?」

お通しの枝豆から皿にぷちんと一粒ずつ豆を出しながら、円香が言った。

枝豆をそんな奇妙な食べ方する人、私は円香しか知らない。

「そりゃあまあ、恋愛くらいは」

私が素直に答えれば、円香は「でしょ!」と言って、メイクをしなくても充分に大きいその瞳を、さらに大きくした。

「でもね、私達もう38なのよ?恋愛対象としての需要がどんどんなくなっていってるのよ?わかる?」

「そんなのわかってるよ」と私は口を尖らせた。
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