Toxic(※閲覧注意)
「夏目さん、JRだよね?」

柴宮大和は、信じられないくらい爽やかな笑顔で私に尋ねた。

「…………ああ、うん」

はあ…………いや、別にいいのだ。

すぐには手を出さない、とても紳士的でむしろ好感が上がる。

でも…………今日の私、そんなに魅力ない?

期待……とかじゃないけど、その…心の準備はしていたわけで。

何て言うか……お預け、くらった気分。

「俺、地下鉄なの。だから、ここでいい?」

どうやら本気で解散する気らしい。

「……うん、大丈夫。あ、柴宮さん、今日は楽しかった。ありがとう」

「いいえ。じゃあ、気をつけてね」

ハイハイ。

お礼とかいいから、さっさと改札の中に入れと、そうおっしゃっているのですね。

わかりましたよーだ!

「また連絡するよ」

柴宮の言葉に作り笑顔で軽く頷いて、私は改札の方へと踵を返す。


──と。

その私の手首を、柴宮がガシッと掴んだ。

「えっ、なに?!」

驚いて振り向けば、柴宮がニヤニヤと笑っていた。

「……嘘に決まってるでしょー」

「……嘘?」

私は首を傾げたけれど、次の彼の言葉で、その意味をようやく理解した。

「ね、びっくりした? それともガッカリした?」

……あー、ほんっとムカつく!

いつもは心の中で留めている舌打ちを、つい思いっきりしてしまった。

「あははは。……てか、帰すわけないでしょ」

楽しそうに笑ったあと、急に甘い声を出す。

「今度は俺が、『ご褒美』もらう番」

掴まれたままの手首が熱い。

「ご褒美……なんの?」

「夏目さんに会いたくてたまんなかったのに、今日まで我慢したご褒美」

薄い褐色の瞳を色っぽく細めて言うと、「じゃ、行こうか」と耳元で囁いた。
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