Toxic(※閲覧注意)

やってもやっても、仕事は一向に減らない。

明日のデート、了解はしたものの、もしかしたら行けないかもなあ。

思わず深いため息をついたら、

「You don't look well. Are you okay?」

ちょうど通りかかった部長が、私にそう声をかけた。

海外営業部は帰国子女が多いせいか、こうして不意に英会話が始まる。

朝の挨拶がくそつまらないアメリカンジョークなんてこともしばしばだ。

ここは日本であって日本ではない所。

たまの飲み会も、いつも銀座のお洒落なバルだ。

わざわざ銀座に出向くなら、いっそ新橋の立呑屋で焼き鳥をつまみに熱燗飲みたい、と日本生まれ日本育ち、生粋のジャパニーズな私は切に思う。

てゆーか、大丈夫?ってアンタ、この仕事量で大丈夫なわけないでしょ。

世間はもうすぐGWだけど、ちゃんと休みがもらえるのか、不安で仕方ないっつーの。

「あれ、夏目ちゃん、聞いてる?」

急に日本語で尋ねて来た部長に、

「Everything is fine, Sir!」

私は山積みになった書類を指差し、眉間に思いきりシワを寄せて答えた。

ニュアンス的には「はいはい、ちゃんとやってますよ、部長サマサマ!」と言った所だ。

「ははは、まあ、あんまり無理はしないように」

「……あーい」

無理しても終わらないのに、どの口が言うのだろう。

「 I’m counting on you!」

いやいやいや、「じゃ、よろしくねー」じゃないから!

……ああ、温泉にでも行って、和をたっぷり感じて癒されたい。
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