Toxic(※閲覧注意)
気晴らしに喫煙所で一服して戻ってくると、デスクの上にメモが置いてあった。

『ブリリアント シバミヤ C/Bヨロ』

これは「ブリリアントの柴宮様からお電話があったので、折り返してください」という意味だ。

他の業界は知らないが、旅行業界では大抵、こういった暗号のような略語で記録を残す。

わざわざ私宛に連絡してくるなんて、何の用だろう。

ホテルの予約関係は、この時期は殆ど島根さんに任せてあるのだ。

「柴宮さんいらっしゃいます? お電話いただいたみたいなんですが」

早速ブリリアントの営業事務所に電話をかけ直すと、少し待たされてから、

『お電話替わりました、柴宮です』

と、数日振りの大和の声が受話器から聞こえてきた。

「電話いただいたみたいですけど、どうしました?」

『ええ。お忙しい所申し訳ありません。お昼過ぎにメールをお送りしたんですけど、見ていただけましたか?』

「メール? ああ、ごめんなさい。忙しくてまだ見てないの」

『ああ、そうなんですね。実は、以前お送りした、御社の夏のパンフレットに掲載いただくお部屋の手数料の件で…………』

やけにビジネスライクな話し方を聞いて、あの夜私を抱いた彼とは、まるで別人みたい……と、ついついしょうもないことを考えてしまった。

『では、よろしくお願いしますね。失礼いたします』

会話を終え、受話器を置く。

仕事だから仕方ないけれど、素っ気なくてなんか淋しいなあ。

早く会いたいな……。

メーラーを開きながら、またため息を漏らす。

……あれ? 私、早く大和に会いたいの?
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