Toxic(※閲覧注意)
……ブー、ブー……

ジャケットのポケットに突っ込んでいたスマートフォンが小さく震えて、遠慮がちに取り出した。

『明日8時に迎えいくよ』

柴宮大和からのメッセージだった。

「迎え?どこに?」

『響子の会社の前』

わざわざ迎えに来てくれるんだ……自分勝手なのか紳士なのかよくわからない男だ。

「ありがとう、了解」

と返して、私はケータイをポケットに閉まった。

なんとなく顔が緩むのは、このラブゲームが楽しくて仕方ないからに違いない。

自分で落としたわけではないからか、何故か大和には飽きる気配がない。

けれど……。

半ば押し付けられたようにもたれかかった暗い窓に、仕事ですっかり疲れきった自分の姿が映る。

ああ私、こんなにオバサンだったっけ。

可愛いだの美人だのともてはやされた若い頃の姿は、もう見る影もない。

私はつい昔のように、駆け引きを楽しむ余裕の女を演じたが、よく考えたら、私はもうそんな偉そうな年齢ではないのだ。

あのディナーの晩の会話を思い出したら、なんだか恥ずかしくなった。

……あーあ。

これが私の、最後の恋になるのかもなあ。

なんとなくそんなことを思う。

本気にさせてあげる、と大和は言った。

本気になんてなりたくない。

最高に楽しめれば、私はそれだけでいい。

だって、本気になったって、あなたをずっと掴まえてられるほど、私はもう若くない。

あなたが私に飽きた時にすがりつくような、情けないオバサンにはなりたくないの。

……でも。

本当は、夢中になりたい。

夢中になって、忘れたいことがたくさんあるの。

『早く響子に会いたい』

大和から届いたメッセージを見つめながら、私は唇を噛み締めた。
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