Toxic(※閲覧注意)
「とりあえず、何か食べよっか」

私をやっと解放した大和は、もういつもの綺麗な笑顔だった。

……急になんだったんだろう、調子狂う。

あまりにも空腹だったので、がっつり食べれるものがいい、とリクエストした。

「高級ディナーじゃなくてもいい?」

「いつも高級じゃ疲れちゃう。私庶民だから、そっちの方が気楽だな」

「じゃあ、とっておきの所につれてってあげる」

歩き出しながら、大和は私の手を取った。

彼と手を繋いで歩くのは初めて。

ついでに言えば、男性と手を繋いで歩くこと自体が久しぶりだ。

私はいつも、手に入れたら興味を失ってしまうから、そんな甘ったるい時間を相手と過ごすことは稀なのだ。

こうして繋いでみたら、大和の手はひんやりと心地よくて、こういうのも悪くないと思った。

ただ、職場のすぐ近くというのがネック。

私が誰と恋愛しようが勝手だが、さすがに離婚して1ヶ月しか経っていないのだ、あらぬ噂……例えば私が不倫して別れたとか、そういう話になってしまうのは勘弁してほしい。

それに、その相手がブリリアントの営業というのは、何が悪いわけじゃないけれど、知られたらなんとなく気まずい。

……それでも、何故だろう、手を離そうとは思わなかった。

この手を離したくないと思うのは、王様に首輪をつけられてしまったからだろうか?

…………違う。

本当はわかっている。

初めて会った時に、私はとっくに彼の毒牙にかかってしまったのだ。

アバンチュールを楽しむなんて、どの口が言ったのだろう。

私は、彼のことが好きだ、多分、相当。
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