Toxic(※閲覧注意)
そういえば、大和は最初から、私に彼氏や旦那がいるのかどうか一切尋ねなかった。

私も訊いていないから、まあお互い様なのだが。

でもそのことと、今気に止めてくれなかったことは、ワケが違う。

「ねえ大和、訊かないの?」

思わずそう尋ねれば、大和は不思議そうに首を傾げた。

「ん、なにを?」

「私が今、結婚してる風な言い方した件」

私が言うと、大和は何故か、ちょっとからかうような視線をこちらに向けた。

「結婚してる風って、もう離婚したくせに」

「え?なんで知ってるの?」

驚いて聞き返せば、

「まあ、世間は狭いってことだよ」

と答えて、大和は鉄板にお好み焼きの種を流した。

世間は狭い……まあ、ブリリアントと付き合っているのは訪日だけではないし、大和はつい最近まで他の部署にいたらしいし、どこから情報が漏れてもおかしくはない。

勘弁していただきたいが、ゴシップは人間の大好物の1つなので致し方ない。

やっぱり人の噂とは恐ろしいもんだ、気を付けよう。

「それに、もし今、響子に男とか旦那いても、大した問題じゃないよね」

「ふーん、そうなんだ?」

なんで? 遊びだから? という言葉を飲み込んで、私は少し笑って軽い返事を返した。

これは遊びだと言われてしまうのが、それを言われたら傷ついてしまうかもしれない自分が、すごく怖かったから。

彼とアバンチュールがしたいと望んでいたはずなのに、重症だ。

けれど、「うん」と頷いた大和が続けた言葉は、遊びなんて内容とは全く逆のものだった。

「だって、響子は俺のだもん」

私の首元を指差して、大和は冗談ぽく笑う。

「たとえ他に誰かいても、力ずくで奪うから問題ないよ」

瞳だけがやけに真っ直ぐで、ゾクゾクした。
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