Toxic(※閲覧注意)
「うん」と私が相槌を打てば、マサトくんは真剣な顔でこちらを見つめた。

……ああ、いよいよか。

私はごくりと唾を飲み込んだ。

彼の私に対する気持ちは、円香や彼女の旦那様から聞いて知っていたけれど。

4年間、本人から一度もはっきりと言われていない一言を、ついに聞く時が来たのだ。

「実は俺……」

「……うん」

「転勤することになったんだよね」

「うん…………って、はいっ?!」

予想外過ぎる言葉に、思わずすっとんきょうな声を上げた。

「え、だから会社の転勤。名古屋に引っ越すから伝えとこうと思って」

「そ、そうなんだ……」

てっきり「好き」とか「付き合って」って言われると思ったのに。

転勤もなかなか重大な話だというのに、告白されると思い込んでいた私は、つい心の中で「違うんかい!」とツッコんでしまった。

「えっと……名古屋にはいつ行くの?」

「来月の頭かな」

「そっか……。いつまで?」

「うーん、わかんない。2年くらいかもしれないし、もしかしたら5年6年かもしれないし」

「そうなんだ、淋しくなるね」

私がそう言うと、マサトくんは「名古屋なんて近いよ、新幹線ですぐだし」と笑った。

マサトくん、いなくなるんだ……。

この人は結局、私に何も伝えないまま去っていくつもりなのだろうか。

そのまま想いを抱えて、会えなくなって、ちゃんと消化できるの?

私は…………私は、大和に会えなくなって、恋しさが募るばかりだ。
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