砂時計が止まる日
「白川君さ、ゆーちゃんがいないところで聞くのもなんだけど、ゆーちゃんのこと、どう思ってる?」
「どう、とは?」
彼はカップをカウンターに伏せて置いた。
「新垣由羅、を1人の女性としてどう見ているか。
まあ、ゆーちゃんがいないからこそ聞けるのかもね。」
「彼女は大切な人です。
彼女は僕の居場所だと思ってますし、僕は彼女の居場所になりたい。
“好き”とか恋愛感情とは違うんです。
なにか、こう、大きな存在です。」
僕の言葉に満足そうに笑ったマスターは次のカップへと手を進めた。
「やっぱり、ゆーちゃんの心のそばにいられるのは君だけだよ。
ゆーちゃん自身からあの子が抱える体の問題を聞いたのなら、あの子の病気がどんなものか知らないと思う。
僕は類君が野球を始めた頃からあの家族を知ってるけど、あの子の抱えるものは小さな少女を絶望に陥れるには十分だったと思うよ。
ああやって、普通に生きてるけど、本当は。
あんな風にいれる方が凄いよ。」
彼の言葉はきっと新垣が病気と生涯向き合っていかなくちゃいけないものだと伝えている。
「だから、ゆーちゃんには人並みじゃなくてもいい。
あの子が幸せだって思える程度には幸せになって欲しい。」
「新垣がたとえどんな体であろうと、僕が知っている新垣は新垣ですから。
何も、かわりはしません。」
いつだったか、彼女は僕に聞いた。
“私がいなくなったら、この世界はどうなると思う?”と。
もしかしたら世界は変わらないかもしれない。
でも、僕の世界は大きく変わる。
彼女がこの世界にいない、だなんて考えることはしない。
だから、僕は彼女の手を離すつもりはない。