砂時計が止まる日
強く書かれた細かな文字。
他の生徒とは違い、明らかにマス目を無視している。
けれど、それを先生たちが止めることは出来なかったのだろう。
「新垣...治らないって。」
「うん、本当。
でも私は奇跡を起こしたの。」
彼女はちょっと前とは違う強い光を瞳に潜め、頷いた。
「病名を聞けば私はあの手この手で調べたがる。
でもそんなことをしたくなくて病名は私だけには伝えないでもらってるの。
結局は現実を受け止めたくない、臆病者なの。
いつか、私にこれからも生きていけるって自信がつくまで病名は知りたくない。」
新垣はそう言って細い指と指を絡めてそこに顎を置いた。
俯けた彼女の表情は読み取れない。
「私はこの病気と一生向き合っていかなきゃいけない。
私は小さい頃から“あなたの人生はあと少しだけ”そう言われる環境で過ごしてして。
だからいつ死んでも後悔しない生き方をしてきたし、寝る時はもう二度とこの世界を見ることは出来ないかもしれないってわかってた。
もちろん、高校生になれるなんて思ってもなかったし、制服も着ることはないと思ってた。
希望、なんて言葉。
あの頃の私にはなかった。
ずっと今日と明日のことだけを考えてた。
でも今の私は、治癒も長期生存も不可能と言われた病気を乗り越えて生きてる。
そのことをあの頃の私と同じ立場の子たちに伝えて、少しでも希望を持って生きてもらうために、今私はここにいる。
それが私の使命だから。
私の命は、私だけのものじゃないって...
でも。そうもいかないの。」