砂時計が止まる日
僕はカバンから教科書を取り出し読み始めた。
普段生活していると僕の周りを何もかもがけたたましく通り過ぎていく。
人も時間も。
僕はそんな雑踏が嫌いじゃない。
ここはいつだって静かだ。
人はたくさんいるのに、どうしてか。
誰かの話し声...
マスターの豆を挽く音...
お湯が沸く音...
パソコンのタイピング音...
シャーペンの音...
厨房から時より聞こえてくる楽しそうな声...
たくさん音が、雑踏があるのに、どうしてか全てが静かに聞こえ、時の流れがゆっくりなのだ。
厨房からする油のはねる音さえも遠く感じるほど、ここの時間の流れはゆっくりだ。
ページが2枚ほど捲られた後、奥から新垣がトレーを持って嬉しそうにやってきた。
「白川君、見て!
パンの耳揚げたラスクもらったの!
紅茶ももらってきた!」
そう彼女が嬉しそうに笑うから、僕の好きな雑踏のない、この静かな空間が雑踏に溢れた空間よりも輝くんだ。
「...好きになってもいい?」
「え、なんか言った?」
僕の呟きに新垣が疑問で返す。
「ううん、新垣が幸せそうでよかったって。」
「美味しいよ、白川君もどうぞ。」
彼女はそう言ってラスクを摘み、僕に差し出した。
口元に寄せられたそのラスクを僕はかじる。
彼女はちょっと恥ずかしそうに笑った。
僕は君の今の表情も忘れないよ。