砂時計が止まる日


「何?」



2歩前を歩く彼女がふと足を止めて僕を見上げた。



「私がいなくなったら、この世界はどうなると思う?」



「えっ...」



新垣の言葉はとても衝撃的だった。



「もし、誰か1人がいなくなっても、この世界は何もないように回り続ける。

そうじゃない?



たった1人じゃ世界は変わらない。



もしかしたらその人の周りは悲しむかもしれないけど、それも数えるほど。



結局、変わらないんだよ。

空の色も風の匂いも。」



そう言う彼女の唇の端は少し悲しそうに上がっていた。



新垣はその小さな背中に何を負っているんだろう、その細い腕で何を抱えているんだろう。



「でも、やっぱりこの世界から消えても自分のことを覚えていてくれる人がいれば、幸せだよね。



...ふっ、もうこの話はおしまい。」



彼女が振り返ると、その顔にはいつもの笑みが浮かんでいた。



「そろそろ、お金下ろさないとなんだよね。

もうお財布が空っぽ。



まあ、働かぬ者食うべからず。

私は必死に類と心菜を養わなきゃ。」



「新垣は、本当に偉いね。」



いつも通りに戻った彼女は僕に“それほどでも。”と返した。



「あ、ここだよ。」



新垣は足を止め、彼女から見て左の家を指した。

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