砂時計が止まる日


そこには軽自動車が止まっているよくある一軒家が建っていた。



「びっくりした?

母子家庭だからアパートかなんかに住んでると思ったでしょ。



これでもうちのお母さん、高収入だから。

まあ、そこまで余裕はないけど。」



そうだ、僕は勝手にマンションかアパートに住んでるものと思っていた。



勝手な偏見だ。



「送ってくれてありがとう。また、明日ね。」



彼女はそう言って柵を開けて中に入っていく。



僕は彼女がドアの鍵を回すのを見て、自分の家の方へ足を進めようとした。



「白川君!」



そう呼ばれて振り返るとそこには月の薄黄色の光に照らされた新垣がいた。



「月が、綺麗だよ。



...おやすみ。」



彼女はそう言う。



“月が綺麗”それが何を意味するかわかるない。



本当に月が綺麗だと伝えたかったのか、かつて文豪夏目漱石が教え子に言った“I love you”の翻訳としての月が綺麗ですね、という意味か、また別の意味がふくまれているかはわからない。



ただわかるのは、彼女が綺麗と言った満月よりもその月に照らされる彼女自身の方が何倍も綺麗だということだけ。

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