最初で最後の恋
そう言って、希は笑った。
「夏も希も、男を見る目がない・・・」
隣で落ち込んでいる恵美を慰めていた。
「キャーッ」
と、耳を塞ぎたくなる程大きな声が
廊下から聞こえてきた。
『な、何!?』
希も恵美も、何が起こったのかわからない
状態だった。
黄色い声が、教室の前まで来た時、
恵美の目が輝いたと思うと、
甘い声を出してその輪の中へと入っていった。
『ちょっと、恵美!?』
私が声を張り上げると、
隣で希が冷静に言った。
「夏。ほら、さっき話した
杉本雄大。」
どうやら輪の真ん中には
杉本雄大がいるらしい。
「ちょっと、どいてくれない?」
男らしい低い声が、廊下に響いた。
これに女はイチコロなんだろう。
その声と同時に、まわりにいた女達が
道をあけた。
確かに、通常よりも顔が整っている。
そして、つかつかと歩いて
止まった場所。
私達の、真正面だった。
『え・・・?』
女達がざわざわと騒いでいるのがわかる。
希は、至って冷静だった。
『あのー・・・?』
なんなんだ、この人は。
「俺、杉本雄大。知ってるよね。
この騒ぎだし。」
歯を出して笑う彼に、
不覚にもドキッ。としてしまった。
『・・・はあ・・』
曖昧に返事をすると、
杉本雄大が話し出した。
「どうして俺がここに来たか
わかる?」
『そんなの・・・。
わからないです。』
そう答えると、
彼の顔がぐっ。と近づいてきて、
耳元で、静かに呟いた。
「君の事、好きになっちゃった」
甘いその言葉に、
私の顔は赤面状態。
その言葉だけを言い残し、
杉本雄大は教室を出て行った。
私はただ、
真っ赤な顔をして立っているだけ。
教室は何故か、
しーん。と静かだった。