耽溺愛ークールな准教授に拾われましたー
プロローグ


藤波家の玄関引き戸が、いつもと変わらない年季の入った音を立てる。
家の中はシンと静まり、物音ひとつない。
今はもう、「おかえりなさい」と彼を出迎えるものはいない。

家の中に入り、もう一度ガラガラガラと重たい音を立てる戸を引く。カタリと最後の音を立て戸が閉まった。

涼しげな瞳は何かを探すこともなく、薄い唇が「ただいま」という言葉をつむぐこともない。

それは彼にとって、当たり前の日常のひとコマ。それを坦々とこなすだけ。

そうやってこれまでここで暮らしてきた。
これからもここでひっそりと、一人で暮らしていくのだ。

暗闇と静寂だけが彼を迎える家で。これからずっと。


そう思っていた。


彼女と出逢うまでは―――




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