耽溺愛ークールな准教授に拾われましたー


美寧が事務所に行っている間にコーヒーの会計を済ませた怜は、美寧が戻ってくるとその手に持った荷物を受けとり、そのまま反対の手で彼女の手を握る。
手を繋がれた美寧は少し頬を染めてはにかむと、嬉しそうに怜を見上げて微笑んだ。

「お先に失礼します。」

カウンターの方を振り向いて頭を下げた美寧に、マスターは軽く手を上げ「お疲れさま。」と言う。
ドアベルを鳴らして二人が出て行くのを見送ると、さっき怜に出したコーヒーカップを洗いに行く。閉店の札は怜の会計前にドアに掛けて置いたから、今日はもう他に客は来ない。

(二人目の娘に彼氏が出来た気分だな……)

なんだか複雑な父親の心境になってしまう。我が子を嫁に出した安堵と寂しさは、何とも言えないバランスでいつも彼の心の中にある。血は繋がっていないが娘のことは結婚前の小さな時から知っていて、当時から目の中に入れてもいたくないくらいに可愛がってきた。娘を溺愛する父親選手権が有れば確実に一位になれる自信すらある。

けれど、娘から初めて今の旦那である彼を紹介された時、とうとう“子離れ”の時期が来たのだと思った。もちろんその相手が娘を安心して任せられる人物であることを確信するまでは子離れするつもりはなかったのだが。
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