耽溺愛ークールな准教授に拾われましたー
夏休みの間、学内にいくつかある食堂のうち、ここ理工学部棟から一番近いカフェテリアは夏季休業中だ。そのため大学で働く職員は外に食べに出たり、学内の少し離れた食堂に足を伸ばしたりしている。学生たちはコンビニで買って来ているものもいた。
怜は大抵家から弁当を持参している。普段から怜は、今いる“藤波准教授室”でひとり食事を取る。そのことを知っている学生はあまりいない。D1の竹下は数少ないそれを知る学生だった。
「俺も今日は弁当なんですよ。」
そう言って彼は嬉しそうにリュックの中から可愛らしい花柄の包みを取り出した。
「お母様が作ってくれたんですか?それとも自分で?」
「ははっ。俺は料理はからっきしです。おふくろは俺が高校卒業の時に“弁当卒業宣言”しました。」
竹下は市内の実家から通ってきている。六つ上の兄が幼稚園に入ってから兄弟三人の弁当を二十一年間作り続けた母は、末っ子の竹下の高校卒業の時に『やっと弁当作りから解放される』と本人の卒業よりもそのことを喜んでいたらしい。
そんな竹下の家の話を聞きながら淹れたお茶を二つ、狭い部屋の真ん中にある長机に置いた。
「あ、すみません」
本来なら門下生である竹下がお茶の準備をするべきだと思ったのだろう、すまなそうにしながらも、竹下が「ありがとうございます」と礼を言う。
「食べましょうか。」
「はい。」
竹下はきちんと両手を合わせて「いただきます」と言った後、包みを開いて弁当の蓋を開けた。